まず邦題ですが、完全な意訳ですね。
原題は、エンドハウスでの危機、って感じですかね。でもこのPeril、っていうコトバ、うまい訳語がないですね、危険、ならDangerですものね。
Perilっていうともっとなんか精神的苦悶みたいな、おどろおどろしいニュアンスがある感じがします。
さてこの当時1930年頃ってのはアガサ・クリスティがメンタルブレイクしていたころで、いきなり失踪したり、駄作を描いたり、駆け落ちしたり、降霊術などのスピリチュアルにハマってみたりと、いわばミドルエイジクライシスに陥ってたころ。
でもこの作品はそのメンブレ状態から復帰しかけている状態の作品。
ポアロものですが、ポアロは老いぼれてもうろくしてきている、というのがこの小説の構成で、ポアロは老いたためにいろんなミスをしでかします。
眼の前で殺人事件が起きるのを阻止できなかったり。
これは名探偵の矛盾とも言えるやつですね、名探偵は図抜けた推理力を持っているはずなのに、殺人を「阻止」する能力はまったく凡人以下の無能に成り下がる。
それを正当化するための要素として、ポアロは老いぼれている、ということなんです。
いわばポアロがミスリード役をするという、読んでる側とすると、非常に錯乱した印象を受ける作品で、さらに登場人物もコカインの薬物中毒者が多数登場して、混沌としています。メンブレ状態のアガサの風景って感じですね。
もう殺してくれ、どうでもいい! っていうセリフがなんか妙にリアリティがあるのはやっぱアガサの真情がこもっているのかも。
もちろんトリックはあかせませんが・・・・、結構なチープトリックというか・・・。でもセットアップはとんでもなく複雑で錯綜しているっていう、とにかくカオスな印象が残る作品です。
手放しに最高の名作や!とはいえないけれど、なんかこの混乱状態がけっこういい味を出していて、アガサが復活する、という兆しを見せている作品で、ワタシは結構好きですこの作品。
このメンブレ状態を脱したアガサは、覚醒状態に突入し、歴史に残る名作を矢継ぎ早に発表していく、無敵時代にはいります。