2019年7月9日火曜日

1934 黒死館殺人事件

「ドグ・マグ」と並んで、日本三大奇書、とされてる本。

 殺人事件、という名から、ミステリーかな、と思いきや、なんというか・・・、なんというか・・・w 奇書、というのが確かに正解なのかもしれません。

 ワタシはこういうのは「列挙型」の作品だと思います。とにかく膨大な固有名詞とかもの、とか、を並べる、という形の物語。この並べる、っていうのは歴史はものすごい古くて、ダンテのディバインコメディ、もこの列挙型、ガルガンチュアもこの列挙型です。近代だともちろんユイスマンス。
 この列挙、っていうのは、単純には知識の誇示、作者はこんなにものを知っているよ、という証明の為です。それと意味がわからん、という衒学的幻想効果でもあります。とにかく、頭がぼやーっとしてくる。とにかく不吉な感じがする。ミステリーとしては、当然「雰囲気モノ」になると思います。

 一つだけ言えるのは爆裂読みづらいってことです。戦前の言葉遣いってこともあるし、内容も意図的に非常に込み入って、ごっちゃごちゃになっております。更に、登場人物の名前とかも全部一癖も二癖もある難読名ばかり。文体のリズム、という点でいくと、もうマイナス100点ってくらい、すごーーーく読みづらい。

 それとこれも言えるのですが、とにかく気合の入った作品だってことです。1934年とありますが、やはりこの30年台ってのは日本文化の一つのピークでして、すごいものはだいたいこのへんに生まれておる。そういう時代、ってのがあるものです、やっぱりその理由は、いつ死ぬかわからない、その実感だと思いますね。死ぬ気でやる、なんて口先ではなんとでも言えるけれど、ほんとに死ぬと思ってるやつはいない。けど30年台の死ぬ気で・・・、はガチなのです。本当に一寸先は闇。これが最後の作品になるかもしれない。っていう感覚が、リアル、なのです。そういうやつのほうが、いい作品を作るのに決まっているし、そういう時代の文化が狂熱的に盛り上がるのも当然。



 作品の内容として、やっぱこの時代特有のやつなんですかね、催眠術とか(
超)心理学、遺伝学、みたいなのがふんだんに盛り込まれています。ワタシは心理学ってのはエセ科学だと思ってますけど、まぁ30年台には大流行、最先端の学説だったというわけ、もちろん遺伝学、もっとはっきりいうと優生学。も当時かなり力を奮っていた学説です。
 心理学はエセ科学ですが、優生学は、科学です。が、優生学は、いまやタブーとされておりますね。(逆に心理学はまだ学問として扱われている)でも、優生学をタブーとしてる人たちの言い分ってのはただの感情論で、冷静に考えれば、優生学はやっぱり正しいことを言っています。認めたくなくても、優生学には多分に真実が含まれておるわけです。
 非倫理的だからといって、間違い、ということはできないわけです。信じたくなくても、事実は事実。
 これは非常に大事なことなんですけど、そいつが嫌い、だからといってそいつが言うことをすべて間違い、ということはできないのです、でも実際には、世間っていうのは、嫌い、なやつの言うことはすべて間違い、無視、完全に無かったことにする、っていうやり方をします。

 犯罪者には遺伝的要素があって、犯罪者も子供は犯罪者になる可能性が高い。という単純な主張なんですけど、これはまぁそうだろうねっていう感じですよね。


 同時代のドグマグもまったく同じような、犯罪の遺伝、っていうのがテーマになっていますし。

 この優生学、ユージェニクスについて語りだすと切りがないし、BANされる可能性も高い。ひとつ見方を変えると、ユージェニクスが発展した背景には、やっぱり30年台の危機感、があります。戦後、ユージェニクスが衰退したのには危機感の無さ、があると思います。
 倫理や道徳、っていうのは裏を返せば、物質的な豊かさでしかなくて、物質的に困窮すれば倫理や道徳は消えて無くなる、という単純なことです。



 読んでいて気づくことですが、この作品は英語圏の知識半分、ドイツ語圏の知識半分っていうふうに、大陸側の情報がかなりたくさん含まれております、虫太郎がドイツ語を勉強してただけってことなんですが、これが戦前、の特徴だと思います。戦後、の本ってのはほぼ英米圏の情報ばっかりで、大陸、側の話ってのは極端に少ない。第二次大戦ってのは大陸、の没落だったってわけで。
 現代のセカイ、はその延長上で、セカイがアメリカ一つ、のモノカルチャーになっています。だいたいすべての人がまったく同じことを言っている。つまりカネだ。と。
 それに反抗してるのは中東と北、くらいなもの。が、彼らも要するにはカネがほしいというのが透けて見えております。本質的には同じ。
 このセカイが一種類の考え、一つの何か、に収斂していくってのが、すごい窮屈、退屈、つまらない感じが与えます。現実、が面白くない。全部同じなので。