いわゆるアングラ文学っていうのか、メインストリームじゃない方の小説ではめちゃくちゃ有名、伝説的な小説。
1930年代、はエログロナンセンスの時代で、片一方で満州事変や2,26みたいな物騒極まりない事件が起きつつ、世間はオサダ事件という猟奇事件のほうに関心を向けていて、芸術界では、めちゃくちゃとがりきった作品がたくさん生まれていて、むしろ戦後よりも全然先進的じゃん、という作品がたくさんあります。
たぶん、当時の人々も、どうしようもない破滅が、避けられずに目前に差し迫っている、ということを理解していて、どこを向いても絶望しかない!という閉ざされた感覚を感じていたんでしょうね。その行き着く先がエログロナンセンス、簡単に言えば現実逃避ですが、現実、が本当に絶望しか無い場合、それは本気、のナンセンスであって、意味の無いナンセンスではなくなる。それが宗教、になるわけですが・・・。
閉塞感、決まり文句みたいに言われてますけども、この小説にも、その閉塞感、が圧迫するように詰め込まれております。この小説を読んでるとずーーーーっと壁に囲まれていて押さえつけられるような不快感を感じさせてくれます。閉所恐怖症のヒトは読まないほうが良い。
このドグマグはものすごい超大作です、とにかく長い。内容はつまるところ精神病、をテーマにしたサスペンスっていう感じです。三大怪小説って言われてますけど、いわゆる事件が起きて名探偵が解決ってのとは全然違います。なんていうんでしょう、雰囲気モノ、狂気のセカイがぐるぐると回り続けてるっていう感じです。トリックとかそういうのもなんかもうむちゃくちゃです。あぁ~そういうことね!スッキリ!みたいなものとは全然違う。まさに、エロ、グロ、ナンセンス。そのままです。
文章が下手なのではなくて、わざと冗長で冗漫で、長ったらしく同じことを何度も繰り返し、同じ意味のコトバを何度も並列で使ったりしているので、すごーーーーーく読みづらい。もやもやします。
また文体も、擬古典文だったり、漢文調だったり、方言色が強かったり、仏教物語のようであったり・・次々にいろいろなスタイルで書かれていて、ジョイスみたいな調子でこれもひどく読みづらい。
ほんとにこれ戦前の日本!?っていう尖りきった描写です。アメリカは拝金主義ですべては金持ちのための社会である・・。みたいなことも書いております、どっかラブレーみたいな狂気じみた文体。
狂人とか精神病院ってのをテーマにするのが戦後に流行った時期があってフーコーだのなんだの、がいろいろ書いております。それを1935年に日本で取り上げてるっていうのはものすごい先見の明。
そういうわけで、ものすごく読みづらいし、ものすごい長いのですけども、とにかくすごい量の情熱、というかエネルギーはビシビシ伝わって来ます。何がこの作者をここまでやらせたのだ?っていうのが一番の謎っていうくらい、この作品にえげつない労力と時間、情熱が注ぎ込まれてます。完成までに10年かかったと言われてますが、10年かかるのも納得っていう感じ。
探偵小説っていうふうに読むと、もうむっちゃくちゃですし、謎解きとかもはちゃめちゃ、なんじゃあそりゃあのオンパレードで誰にでもおすすめ出来る名作ではないのですが、とにかく、すごい、作品であるのは確かです。非常にヒトを選ぶ。
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補足 アメリカ観
「アメリカは自由の国、カネを持ってるヒトにとっては」
とよく言われます。USJでも取り入れられているようにアメリカは、カネを払ったヒトが優先されるのは当然、という発想があります。行列に並ぶのが面倒なら、行列の先頭に行く、という権利を買えばいい、という考え方。日本的な発想では金持ちだろうがルールは守れ、っていう発想ですが、アメリカは、ルールを守らなくていい権利、も買えるんです。
だからアメリカはすべて金持ちのための社会、っていうふうに見られますけど、それはやっぱしごく一部の都市のアメリカ、ヤンキーのアメリカでしかなくて、アメリカってのはわずかな都市と莫大な広さの田舎があるんです。その膨大な田舎のアメリカが厄介極まりなくて、まじかよ、っていうカルト宗教みたいなやつらがいたり、移民ばっかりのところがあったり、ふるーいキリスト教コミュニティだったり、死ぬほど保守的だったり、白人至上主義だったり・・というわけ。
アメリカが時々奇々怪々な行動をするのはこっちの田舎のアメリカ、の力によるものなんですよね。当時の日本にはそれが見えて無かったと思います。現代でもよくわからない。でもワタシはこっちがアメリカ、のパワーの本質なんだと最近は思っております。
狂気じみてるんです、アメリカのダークサイドも。