光武帝、を題材にした歴史小説。
光武帝、だれかわかりますでしょうか?
項羽と劉邦で有名な、劉邦が建てた王朝、漢。劉邦が死んで早速妻とその一族に乗っ取られそうになるのですが、なんとか踏みとどまる、そっから漢は繁栄するのですが、だんだんと繁栄にも陰りが出てくる。
そこへ王莽、とかいう謎の人物が現れ、王朝は乗っ取られて「新」という王朝になる。がすぐに潰されて、後漢、という王朝に変わる。
その後漢、を建てたのが光武帝です。
この王莽ってのが、非常にこれまでの暴君みたいなのとは趣が違っていて、ゴリゴリの儒教家で、親孝行者、クソ真面目君みたいなやつ。
その政治も儒教の教えをそのまま実行しようとしてめちゃくちゃ嫌われるという、優等生君が権力者になると最悪、っていうケースです。
でも悪人、とはいえない。キレイゴトで政治をすると大失敗するということなり。つまり無能、なのです。この無能、ってのが一番タチが悪い。悪ですらない。
こういうキレイゴトしか言わない無能のクソ野郎を倒す、というのは大義名分が非常に難しいもの。
とにかく儒教、に国が乗っ取られたと言っていいでしょう。彼らはいわば中国古典を丸暗記してるような連中。いかに学問というものが無意味かってことを証明してしまってる・・・
ちなみに劉邦は儒教が大嫌いで、何の学もないし、何の仕事もしてない、酒も女にも溺れている。ただ人望だけで天下を取った非常に稀有な人物。武力があるわけでもないし、知略に優れてもいない。ただのヤカラです。ヤクザと言って良い。
だがとにかくヒトに愛されて、なぜかそこにヒトが集まるっていう人物だったのですね。それが中国史上最強と言われている武神項羽を破った。頭の上につねに龍がとぐろを巻いていたらしいです、どんな人間やねん。
その一個前の秦を建てた始皇帝とはえらい違い。始皇帝はすべての能力に優れた圧倒的カリスマって感じ。
劉邦って人物は歴史の中でも極めてイレギュラーで謎の人物です。他に劉邦と似ている人間ってのがいない。ぶっちゃけ、劉邦は優れているとこが何もない。
王莽は劉邦の逆。真面目で頑張りやであるが、無能であるところは一緒。
なにか社会にはサイクルってのもがあって、人々が禁欲主義なものにひかれる時代ってのがあるものです、なんかストイックにピューリタン風に、あるいはカトリック風に、浮かれてる奴らをぶち殺してやりてぇっていう。
なんにせよ、宗教や学問が権力を握るとまじでろくなことにならんってことです。
さて作家の宮城谷昌光、ってヒト、初めて読みますが、プロフィールを見てみると、歴史小説の取れる賞はすべて取ってるという感じ、紫綬褒章ももらっとるし、もらえるものはすべてもらったのですね。まぁ小説なんて今どき誰も読まないし、競争相手が少ないってだけなのだと思いますが・・・
でもやっぱり評価されてるだけあって、文章は読みやすい、平明?ではないけど、知識のひけらかしって感じでもないし、ちゃんと解説もしてくれる、わかりやすい。これはいい作家といえます。たまに難読漢字を放り込んでくるのが解せないですが、まぁ中国古典を好む人間=漢字が好きなのでしょうから大目に見ましょう。漢字が嫌いなやつが中国の古典読むわけがないもの。
ワタシは漢字好きじゃないですが、傑作だと思う漢字もあります。
「儚」 人の夢と書いて はかない 強烈なブラックユーモア これは大傑作
恤れむ ココロに血が通っていると書いて あわれむ 単純明快
憐れむ、よりも断然こっちの恤、のほうがいい。
司馬遼太郎みたいになんか偉そうに上からしゃべってこないところが良い、自分の価値観や政治信条を押し付けてもこない。
この作家はもっと読む価値がありそうです。どうやら呂不韋を扱った小説が代表作らしい。
あと名前も三文字名字で目立つしね。
この小説の問題ではないんですけど、そろそろ中国人の名前を日本読みするというのをやめたほうがいいと思います、中国人なんだから中国の呼び方をすべき。漢文、とかいう謎の学問をするくらいなら、中国語を学ぶほうが良いということなり。
日本読みすると世界の誰とも話が合わない。
光武帝こと劉秀はリュー・シュウ で同じなのですがね。
光武帝は、自分で農業をしたこともある、百姓の気持ちもわかり、戦略は天才的、誰にでも優しい、恨みを持たない、周の文帝、に並ぶほどの聖帝、ということになってるよう。
まぁこれがもちろん光武帝が権力者になったから美化されてるだけなんですが、劉秀の成した事実、だけを見ても、何らかの優れたところがないと出来ない偉業をしてるわけで傑物なのは間違いなさそう。
劉秀は最初、優れた農業家、として名をあげます。これは人間としての確かさが違いますね。対自然、ってのはごまかしや嘘や裏技、チートってのは通用しない。確かな知性と実力がないと農業は出来ぬ。
あと光武帝は奴隷の解放も行ったとか・・・。ふ~む、英雄すぎるような・・・
この光武帝が建てた後漢は200年も存続・・・そして奴らがやってきます、董卓・・黄巾の乱・・・そう、三国志の時代なのです。
もう三国志はこすられすぎてツルピカになっており、歴史というよりゲームの世界って気がするなぁ・・・