2024年6月13日木曜日

-322  ニコマコス倫理学  アリストテレス

 倫理学とは、自分が善き人間になるための学問である 


立法者は法によって、国民が優れた行動をとるように法を作るものなのである。  


徳、とは美を目指す性質である


徳は中間性のことである


正義とは、法を守り、公平であることである


法はすべての人間に利益になる決まりである


人は神になることを望まない、神になるということは友を失うことだから


孤独な人間は幸福とはいえない、良い友人を持つということは善であるのだから、幸福な人間がすべてを満たされているとすれば、友人を持つという善が欠けているのはおかしいから


幸福、は活動であり、状態、ではない

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アリストテレスの本の中で、おそらく現代では一番読まれてる本。

 

(ニコマコス、とはおそらくアリスの子供だとされている。

関係ない話ですが、アリストテレス、アリスっていう名前は、学者として最高の名前だと思う。こんな学者っぽい名前が他にあるか、という感じ。ニコマコス、もネーミングセンスを感じる)


オルガノン(論理学)とかメタフィジックス(形而上学)は、一般的には誰も読まないし、更に現代ではほとんどが時代遅れです。

 アリスはほかにも、いわゆる芸術論もあるのですが、これも必読とワタシは思う。本当にアリスは万学の祖、一人総合大学なのです。


 だけども、倫理学、政治学、などの実践哲学、と言われるものは、現代と古代で何一つ変わらないので、まだまだこの本は現役、というかこの本が、倫理学そのもの。


 倫理学というと、道徳と混同されていて、ただ困ってる人を助けよう、とかそういう綺麗事を言う学問だと思われてる。ほいでアリスは倫理学とは言わないで、倫理も政治学、の一部という感じで書いている。


 けど実際は違っていて「幸福な国家」を作るにはどうするべきか?という、どちゃくそ普遍的な問題に取り組むもので、一番生活に密着してる学問と言えます。


 アリスの本はほぼすべて、アリスが自分で作った学校「リセ」においての講義録という形になっています。

 だから講義形式になっていて、プラトンの対話篇みたいな謎の構造ではなくて「教えるために」書かれている。

 よく、「わからせないために」書かれてる本がある、くだらない本のほとんどがそう。つまりは詐欺です。


 さてアリスの倫理学の結論はとてつもなくシンプル


 バランスを取ることこそが、徳(アルケ―)である


両極端に走らないでその中間を維持すること。

 東洋でいうところの中庸、です。


 そしてワタシもこの結論に大いに賛成です。間違いない。プラトンは明らかに極端でしたし、宗教はほぼすべて極端です、善と悪、天使と悪魔、敵と味方。二分法ばっかり。

 なぜ二分法ばっかりになるというに、バカだからです。愚か者にはバランスを取るってことが出来ない。やりすぎるか、全くやらないかしかない。

 だからバランスを取ること、こそが倫理、幸福、目的である、そしてそれが一番難しい。

 キリスト教のおかげで、アリスの倫理観は全然普及しなかった。


 そして徳(アルケー)の目的は「美」である、とあります。


  つまり、アリスの結論としては、生の最終目的は「美」である。というロマン派っぽい結論となっております。

 でもこれはさすがの結論だと言えます。美を目指す、に変えるものは無い。


 アリスの理論によると、自殺は辛いことから逃げること、は勇気ではなく、美しくもないから良くないとのこと。簡単に言うと、ダセェからやめろということだと思われます。


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正義とは、法を守り、公平であることである


法はすべての人間に利益になる決まりである


 これがアリスによる正義論なのですが、こんな単純明快な定義はないですね。至極なるほどであり、普通の人の考える「正義」とはまったく違うし、誰でも行いうる正義、だと言えます


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 この倫理学は、ほとんど幸福論、であるのですが。幸福論なんて論じてどうなんねんと思われますが、大事なことでして、目標、をきちんと決めるということです。

 こういうのを、目標、とする。っていう目標が定まってないと、社会のルールを作っていけない。


 アリスの幸福論は東洋のそれ、と全く違う。人はそもそも社会的人間である これがアリスの人間感であり、幸福は、悟り、にある、みたいな東洋のそれとまったく違う。

 孤高や個人の完成、を目指すのではなくて、優れた社会、を幸福とするっていう考え。だからアリスは友人、や愛、が大事だと考えるわけ。

 東洋の倫理とは真逆ですし、キリスト教的倫理観とも違う。


 さらに他の倫理と違うのは、アリストテレスは現実逃避してないってことです。キレイゴトってのはすべて現実逃避、言葉だけの理想で道徳や倫理もそれだと思われてますが、アリスはちゃんと、現実、をもとに考えている。

 


 とにかく、アリスの考えは、バランス、これにつきます。プラトンやその他宗教は、究極を目指す傾向がある、アリスはそうではなくて、両極端にならない、バランス、こそが到達点とする。バランス、ってのは瞬間ではなくて、持続、だから幸福は活動にありとするわけ。


 よくよく考えるととっても一貫性がある、さすがに、2300年も読まれている本ですね。アリスの倫理観に賛成かどうかはともかく、首尾一貫してる。これこそ、本、ってものですね。


 今本を書いて、2000年残るものを描くなんて、到底不可能だと思われます。偉業すぎる。