2024年8月18日日曜日

1924 茶色の服の男 アガサ・クリスティ

  アガサが34才くらいのころの、まだまだ駆け出し、セミプロみたいなころの作品。


 ミステリ小説というよりも冒険小説です。アガサの本で始めて売れた本みたいです。


内容は、やっぱりかなり若々しい、荒削りな作品。


 でも当然のことですが、女流作家というわけで、女性の描き方が秀逸です。的確ですね。

 女性の浅はかで上っ面ばっかりで、しょうもないけれど、愛嬌がある、という感じを正確に描いています。男がこういうふうに描くと、男女差別だ!みたいに言われるに決まってる、同性じゃないとこういうふうに書けん。

 だからって男が男を上手く描けるってこともない、というより男を描くのにそんな技術はいらない。クソ野郎はクソ野郎だし、いいやつはいい奴。いい部分もありながら、悪い部分もある、っていう2面性を持った男ってのはまずいないですね。


 急にいきなりロマンスに夢中になって、見境がなくなるところとかも。なんじゃそりゃあ、っていう行動の一貫性のなさとかも、やはり女性、を上手く捉えています。

 ミステリーの女王でもあるし、女流作家の女王でもある。


///////////

 さてこの小説は、ローデシア、というファンタジーな響きの国が出てくるのですが、これは実在した国で、今ではジンバブエと呼ばれてる国。

 ジンバブエはイギリス連邦から独立したあと、独裁が続いて、みなさんご存知ハイパーインフレで経済崩壊、底を舐めるような貧困に陥ってしまいました。

 独立こそ最高!自由こそ至上!人種差別する白人はゴミ!っていうのが戦後のマントラでしたが、ふーむ果たしてそれはどうだったんでせう、って思ってしまいますね。

 それもこれも白人が社会の秩序を破壊したからだ!ってなんでも白人のせいにしたいと思うのですけどジンバブエが崩壊したのはどう見ても白人がいなくなってからです。

 そうであってほしいということと、現実は異なるってことですわね。

/////////


 全体としてかなり粗削りでなんでやねん、展開も多いのですが、駆け出しの作家がこれを書いたとしたら、相当の才能があるな、と思うでしょうね、実際あったわけですけども。


 展開も全然予想できないし、黒幕の推理も、ミスリードがふんだんにありつつ、ちゃんと読めばたどり着くように出来ています。

 これは読んでも損は無い作品だと思われます。

 推理モノではないのに注意。