2021年10月6日水曜日

1973 新釈漢文大系 38 史記1 本紀上

  なんか最近軽薄な、何も考えずに読める、見れる、系のものばっかりだったので、どっしりしたものが久々に読みたくなって「史記」を読み始めました。


 史記のダイジェストみたいな本はいくらでもあるんですが、全訳はかなり少ない。この新釈漢文大系、は原文、読み下し文、翻訳文、さらに用語解説が詳細にあって、めちゃんこしっかりした本。翻訳というのはこうあるべしっていう本ですね。


 ただ1973年と古いし、文章が当然のことながら漢文調なので、かなり読むのはきつい。ネットで調べようにも漢字が出てこない。ここがネットの弱いところでもある。


 本紀、とはつまりダイジェストで、ササッと、王朝の全体の流れを時系列に書いてあります。だから春秋戦国、など複雑極まる時代は、〇〇が死んだ、XXが勝った、XXが滅びた、みたいな単純な事実の羅列でなんのこっちゃまったくわからぬ。

 この本紀上では伝説の皇帝、半分龍?半分人間、の化け物が王だった時代から、秦の崩壊までを扱っています。


 けれども、始皇帝、の扱いだけが別格でほとんどが始皇帝の記述と言ってもいいですね。殷の伝説的悪王紂帝、を武王が討って周王朝ができた。ってことなんですが、このあたりもまだまだ半分伝説半分事実、みたいなところで、ほんとかなぁ?って感じ。

 紂王も悪として誇張されすぎてる気がしますし、武帝が完全無欠すぎます。実際いたんだろうけど、実際とはかなりかけ離れてると思われます。

 周王朝が衰微して春秋戦国になってようやく、本当の歴史、が始まります。特に戦国、になって、急にすべてがリアルになる、ようするに何万人殺した、何万人殺した、っていう殺戮のオンパレード。急に数字が出てきてハッとしますね。歴史ハジマタ・・・


この春秋戦国っていう、戦乱の時代が中国では550年続くのですね。


550年!? シンジラレナーイ。550年も常に戦争状態だったら、やっぱおかしくなってしまいますよ、もう完全に狂ってると言っても良い。


 それを始皇帝が統一するわけですが、始皇帝が一人で覇道を極めたというわけではなく、始皇帝の曽祖父昭襄王、が秦をすでに列強での最強国にしていたので、始皇帝は、最後のまとめ、を行ったという感じです。


 秦、という国は、山奥にあって、山に囲まれて唯一通れる入り口がカンコクカン、という要塞となっており、さらにそこも、崖に囲まれた細い一本道となっていて、守るにしてはまさに鉄壁なのです。いくら他の国が100万の合従軍を作っても、要塞で防いで、さらにそれも突破されたら狭い通路に誘いこんでそこで潰してしまえばおしまい。どんだけ大軍を動かしたところで、軍隊が動けない地形なんです。航空兵器の無い時代にはまさに最強。

 だからがっちり守りつつ、じわじわ領土を広げて、ついに統一をしたというわけのようです。だがそのじわじわ、に550年がかかった・・・。


 始皇帝というと悪逆無道の暴王と名高いですが、それは一面的見方で、冷徹な合理主義者というタイプのようです。経営者に向いていますね。そしてこれが一番民衆に嫌われるタイプでもある。

つまり「老人は社会の役に立たないから殺せ、障害者も生まれたら始末しろ」

 こういうことを言うタイプだってことです。プラトン、ナチも同じようなことを言って、現代でも批判されております、始皇帝も同じこと。感情、ではなくて法、で国家を運営しようとした。

 現代でもまったく同じことですね、合理的で正しい選択は弱者切り捨て、命はかけがえないもの、みたいな感情論で袋だたきにされる。結果、感情論が勝って、経営が傾いて破滅するというわけ。


 始皇帝が感情に流されるタイプだったら当然戦国の統一にも失敗するに決まっているわけで、それを非道で残酷と批判するのは、まさに感情論でしか無いです。始皇は非情、だから成功したので、キレイゴトばっかり吐いてるやつがなにか成し遂げたのを見たことがない。始皇帝が優秀な人間だったのはまず疑いない事実。

 

始皇帝最大の悪行として知られる「焚書坑儒」ですが、これも一理あります

「学者というのは、昔は良かった、ということしか言わない、口先だけで文句を言うだけで何もしない、だからすべて本を燃やして、学者を埋めろ」

 つい昨日、気候変動研究がノーベル賞をとってて、気候変動は科学で実証された、政治家たちはアホだからそれを認めない、と文句を言ってましたが、文句を言ってないでオマエが行動しろ!って話。なにかを知ったところで、行動しないのだったら何も知らないのと一体何が違うのか?そんなやつら全員埋めろってことです。

 めちゃくちゃでもあり、合理的でもある、行動と結果を求める、政治家、始皇、の判断。

特に本を全部燃やして、歴史、を抹消する、っていうアイデアは斬新ですよね、どうせアホだから歴史や本なんかから何も学ばない、歴史を無くせという・・・


 ただ晩年に差し掛かると明らかに始皇帝は痴呆になっていき、不老不死の真人になりたいとか、むちゃくちゃになっていきます。これがワンマン社長システムの怖いところ、秀吉も同じようなことになりましたが、まさに自分が冷静に判断して処刑しないといけない人間になっても、自分が優秀で全てを仕切っていたために、周りにはぼんくらのイエスマンしかいなくなっていて、誰にも止められない。


 始皇帝はたしかに、英雄であります。無能じゃなくて英雄、であったがゆえに功罪どっちも計り知れないほどある。始皇帝の名が政、っていうのがまさに名は体を表すですよね、政、に正解ってのは無い。なにをやっても批判される。