2017年7月5日水曜日

1602 トロイラスとクレシダ


サーサイティーズ「セックスだ、セックス、いつだって戦争とセックスだ、他のものが流行ったためしはねぇ、みんな梅毒になって死んぢまえ」

ヘクトール「もう何も言うな、オレの運命を青空のように澄みわたらせているのはオレの名誉なのだ、命を愛さないものはいない、だが、愛すべき人間というのは命よりも名誉を愛するのだ」

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シェイクスピア最盛期の作品でありながら知名度が今ひとつの作品。タイトルが悪いですね、トロイラスとクレシダ、っていうのが誰か分かる人は少ない。このトロイラスとクレシダとの元ネタはチョーサーにもあり当時は有名だったみたいなんですが、今はかなりマイナーな話題でもあります。

 そして確かに失敗作でもあります。トロイ戦争というテーマが一つの演劇として完結させるにはあまりにもテーマが大きすぎてますし、色々詰め込みすぎてる感がかなりあります。シェイクスピアは古典古代の物語が大好きなんですが、これはなんか好きすぎて裏目に出てるパターンかもしれません、なんかその作品が好きすぎて、わけのわからない同人作品を作ってる中2病患者みたいな感じ。ただし失敗作であっても、というか失敗作あるあるなんですが、随所にキラリと光るアイデアがあります。



 もちろんトロイア戦争はイリアードをモチーフにしてるんだと思いますけど、シェイクスピアのキャラ付けってのは、後世に多大な影響を及ぼすので、歴史的事実よりもそれが真実になってしまうくらいです。

 キャラの立ちは圧倒的にギリシャ連合軍のほうが優れていて
・バランスの取れた人格者である指揮官アガメムノン(だが脳味噌は鼻くそ程度)
・銀髪で智謀に長けた老将ネーレウス
・高潔な人格であり頭もキレる作戦参謀ユリシーズ(オデュッセイア)(化け狐)
・脳筋のバカアヤックス
・自尊心の塊で横柄であるが最強の武将アキレース
 その腰巾着パトロクロス(アキレウスのウケ)
 
と、キャラがとってもしっかりしてる、この並びなんて現代の物語としても全然使えるパターンですね。アキレウスとパトロクロスにBL的な雰囲気を匂わせたりと、現代らしさ満点です。

 そこにシェイクスピアお得意の道化役としてサイサティーズなる人物が登場し、歴史劇に現代からの使者としてツッコミを入れるという構図です。


 またトロイア勢も魅力的なキャラがいて
トロイアでは最強の勇者ヘクター(高潔で人格者)
美少年で絶世の美女ヘレナを寝取ったヤリチンボーイ パリス
絶世の美女であるがヤリマンのヘレナ
女預言者カッサンドラ


 とにかく人数が多い大規模な演劇ですね。
ちなみにアヤックス、アイアースというのは2人いて、大アイアース、小アイアースがいるんですがこの演劇はどっちのアイアースかはよくわかりませんが、どっちも脳筋なんですね、腕力だけはめっぽう強いが脳味噌は空っぽ。けど大のほうはプライド、がすごい高くて誇りを大事にする、小のほうは怪力の上に俊足でもあるんですが、下種野郎としても有名です。


 これは歴史劇、なんで物語の筋というのはみなさんご存知、のものをいわばパロディにしてる作品というものなんで、シェイクスピアらしいプロットの緻密さみたいなのがちょっと見られません、物語が決まっているのでね。オチはみんな知ってるというわけで。だから完成度としてはいまいち、という感じがしてしまう、この時期にハムレットという傑作中の傑作を作っているので、その次に何を書こうか・・っていうまだ定まってない感じがしますね。