2017年9月17日日曜日

2010 ロシアの歴史【下】 19世紀後半から現代まで ロシア教科書

  ロシアの歴史教科書  明石出版

 レヴュー
これはいい本です、2013年のベスト暫定1位です。まだ2月ですけどw
 他の国が日本をどう見ているかがわかる、というのは(この各国の教科書シリーズの趣旨なんでしょうけど)別にどうでもよくて(アメリカの犬だと思われてるでしょう)、ロシアが自分の歴史をどう考えてるか、が興味深いところです、というのは、ロシアはソ連ではないから。ロシア自身のソ連への公式見解が歴史教科書に書かれてるわけです。
 一番驚いたのはロシア政府は中学生や高校生にもろに革命について教えてるのだなということですね。
 課題 君は大革命時の赤軍が正しかったかどうかを考えて、自分の態度を決してください。

まじか?って感じですよね、そんな15そこそこのガキにボルシェヴィズムとメンシェヴィキの正しさを評価して自分の態度を決めるなんてことを求めるの?一体どういうテストがあるんでしょうか。
 
革命は必ず流血を伴わないといけないので、スターリンのテルールは評価出来る、反対派の抑制が、国家の統一には必ず必要で、どの先進国にもテルールが行われている、アウグストゥス、フランス大革命、クロムウェル、アメリカの現地民虐殺、むしろ大量殺戮、ジェノサイド、民族浄化が国内のイデオロギーを統一、近代化させることに貢献し、より大きな災厄、戦争での敗北を防いでくれる、とかそういうことを書けばいいのでしょうか?なんにせよ、ロシア政府は教育でバカを生み出すという方針をとってないのですね。
 アメリカにしろ日本にしろEUにしろ歴史教育は、いわゆる中道左派的、無責任な上っ面だけの倫理と道徳を吹き込むものです。世界の人は協力するべし、平和が大事、でも石油を自分の国家のものとするなど自由資本主義の帝国支配に抵抗する中東のカス、テロリストどもは一掃すべしっていう。G5イデオロギーを教えるものです。彼らにとって教育は政治的に無能で、金儲け主義の質のいいサラリーマンを養成するものだから・・・
 またこの本のよいところは、帝国主義への批判も鋭いということです、アメリカ、イギリスへの批判もコテンパンにしております。資本主義国家は、工業化の資金を植民地からの略奪、侵略戦争による賠償金、不平等条約の押し付けによる利益、教会からの資産没収などで成し遂げた、ロシアはそれをなしで自国内で工業化をしなければならなかった。と。
 これは現在の新興国が直面してる問題のそれです、産業の発展には、最初になんらかの裏ワザ的な膨大な資金が必要なわけです、西洋からの借款を受ければ、彼らの植民地になり、どんなに稼いでも金がウォール街に流れるようになってしまう、共産主義圏からの援助も無い、侵略するべき土地もない。だからソ連のように自分の国内に植民地を建設しないといけない、独裁権力を築き、国民から搾取して、資本を蓄積し軍事産業複合体を作ってそこから産業を展開する、核兵器による交渉によって借款でない資金を手に入れる・・・インテリ気取りや自由主義者は近視的にそれを批判するけれども、それ以外の近代化の方法という代替案を持ってはいない。

・スターリニズムについて。これもテーマの1つです。G5的にはスターリン=ヒトラーと同じような悪の親玉、のような扱いですけれど、スターリンはそんなに簡単ではない。スターリンは英雄です、靴屋の息子だし、グルジア人だし、何度も投獄、脱獄を繰り返した、生粋の闘士。チャーチルは大貴族の息子、ローズヴェルトはチャーチルの遠縁で、これも大金持ちの息子(大統領になった人物のいる家系だし)、レーニンも貴族で学校の校長の息子。などなど、結局権力者というのは、名家の生まれなものと比べると際立ってスターリンは実力でのし上がってきた人間だとわかります。ちなみにヒトラーは没落貴族の絵描き崩れ。逆な言い方をすれば、生まれが悪い人間が権力を手に入れる方法は独裁しかないということでもあります。いかに民主主義、ってものは機能しないかということの証左でもありますけれど。(権力者が能力じゃなくて出自(資本)で決まるから)
 スターリンは粛清を繰り返し、反対者を全員死刑にした、というのがおそらくスターリンの悪としてのイメージの源泉ですけど、スターリンの目標ってのはスターリン自身がちゃんと語ってくれてます
 「ロシアの進歩を止めてはならない、力と可能性を信じよ、立ち遅れたものは打ち負かされる、ロシアのよくないところは打ち負かされたことだ、我々は二度と打ち負かされるのを望まない」
 ともかくそれです、もう二度と!敗戦はゴメンだ、スターリンの真実はそこにしかないと思います。彼は現実主義者だから、結局うわっつらだけの人気取りをしたところで、ロシアはすぐに帝国の食い物にされることを知っていた、だから何があっても帝国と、ファシストとに、勝たなければと、それだけを信念にしてあらゆる手を下したとしか思えない。結果それを成し遂げた。だからスターリンを簡単に悪党にすることは出来ない。スターリンは大人しくて、自他的な人間であったというのも、あながち嘘ではないのかもしれません。
 乙は倫理ってのを範囲で考えるようにしてます、自分だけのことしか考えないやつ、自分と自分の恋人だけのやつ、自分と自分の家族、共同体、民族、国家、人類・・・っていうふうに。もちろん広いほうが倫理は高い。いまの政治家、政治的主張を持たないで自分の小銭のために政治をする人間、これは倫理的には最低ランクです、資本主義のブルジョア、インテリも。
 そう考えるとヒトラーはやっぱり自分だけの事を考える人間ではなかった、民族の事を考えた、スターリンは連邦の事を考えたからもうひとつ上、マルクスは人類を考えたからもうひとつ、と、いうわけです。現行の資本主義世界では、ほとんどの人はヒトラーやスターリンよりも倫理に乏しいといえるし、だから悪をなすにもチンケな悪しか出来ない、スケールの小さいくだらない人間ばっかりだなって感じがします。とくに君が好きだの嫌いだのっていうラブソングばっかがお店とかで流れてるとそう思う、なんか世界が狭っ・・って感じがする。半径50Mの世界で生きてる感じがする。

・19世紀ロシア文学が好きな人にもオススメです、ドストエフスキーがネチャーエフ事件をどう考えたか、なんでシベリア送りになったか、なんで保守化したかなどが手に取るようにわかります。だからやっぱ乙は悪霊が一番好きですけどね。罪と罰は面白すぎるし?カラマーゾフはひよってる。白痴は主観主義すぎる、未成年はこれは謎が多すぎる・・・

・資本主義化したあとの文化の定式化が秀逸でした
創造の自由⇔文化インフラの予算の削減(ソ連は文化に融資をしていた)
検閲の廃止⇔スポンサー、消費者に依存する文化
文化の国際化⇔文化レベルの一般的な急激な低下、俗悪化(ポルノ、暴力に集中)
宗教の復活→市場主義のモラルを補完するもの?カルト化しやすい

 


 まとめ
・「革命かは破滅の運命を背負った人間である、革命家には個人的関心、仕事、感情、執心、財産、名前さえない、革命家の一切は例外な1つの関心、ひとつの思い、ひとつの激情、すなわち革命に支配されている」
 ネチャーエフ「革命家のカテキズム」→内部ゲヴァルトにより、反対派を全員でリンチ死刑にする事件を起こす
・「目的は手段を正当化するという人間は自分を神よりも高く置く、そして生殺与奪権を自分に与える」 ドストエフスキー
・移動派 神話やファンタジーよりも、現実の生活を描く、アカデミーを離れて移動展覧会を開く
※ 権力とは正義、のことである。権力の放棄は、正義の放棄である。芸術家は20世紀、新しい芸術と唱えて権力をすべて放棄して現実との接点を無くした、アートは自分を無力化した。そしてアートは力を失った。権力を放棄するということは社会における正義を放棄するということです
※他の人が悪をするということで正義を成さないひとは、常に正義を成さない
・生産手段を国有化すべし(私有財産の保護という人権宣言の書き換え)
・武力革命路線を採用したのがボリシェヴィキ(レーニン)、改革・修正派がメンシェヴィキ
・日露戦はアメリカ、イギリスの陰謀によってけしかけられた、日本は明治維新以来ずっとアメリカとイギリスにいいように使われただけである。
・帝国主義戦争を内戦による革命に転嫁することが唯一の正しいプロレタリアのスローガンである  レーニンの敗戦主義
※国家の財政をポピュリズムでボロボロにしてデフォルトさせることで混乱に乗じて革命を起こす、財政崩壊主義路線の革命が可能では?
「これは何か?愚行なのか、裏切りなのか」 ミリュコフ
・「ロシアには世界革命戦争を行う能力がない」 レーニンによる世界革命の放棄、マルクスは世界革命が成されなければならないとしていた。事実、ほとんどの理論は世界革命がなされなければ成立しない、共産主義、はまだ人類史にはあらわれていない、世界革命がなされていないから。
・大革命期にソ連は債権のすべての踏み倒し、銀行口座、金の没収、土地、企業の国有化をした。相続権も廃止した。
※金融資産を分散すれば安心という、証券会社の嘘。国家は暴力で簡単にゴールドを没収できる。
・大革命の飢餓の原因 貨幣がデフォルト状態だったので農民が食料供給を拒否、大規模な飢饉へ、レーニンはこれを教会財産を没収する好機ととらえた。
「人間が人間を食べている、これは教会のすべての権限を没収する好機である」
→飢饉は驚くべきことではなく常に発生していたもの、内戦の飢餓で500万人ほどが死んだ。
・ラーゲリ 収容所の事
「銃剣でもって思想と戦うことは出来ない、思想には思想で戦わなくては、将兵たちはそれを永遠に理解しない」 サヴィコフ 
・「共産党宣言には全世界を闘いとらないといけないと書いてある」 ブハーリン
・「スターリンは粗暴すぎる、いつかもっと忍耐強い人間の交代させるべきだ」
レーニンのスターリン評(しかしレーニンはスターリンを後継者にした)
・スターリンは一国社会主義、永久革命論のトロツキーと対立。追放。世界革命に基づく、共産主義のマルクステーゼ完全放棄
・30sの農村の集団化コルホーズにより、2000万人ほどの飢饉、それにもかかわらず食料は輸出されて外貨獲得へ。第一次五カ年計画に基づく、重化学工業を優先した国内植民地化経済成長。粛清、大テルール、矯正労働収容所、民族同化、文化革命、共産党史の神話化。社会主義リアリズム(ありのままの現実ではなくて、社会主義の理想を描くことがリアルであり、真実である)
「五カ年計画を四年で!」
・「人事権を掌握したものが組織を支配する」 スターリン
・社会を安定化させるために、国民を無知にしておくのは短気的には正しいが、国民が愚劣になることにより、国家の運営が成り立たなくなる。言論統制は、多くの愚劣なでくのぼうを生み出す、独裁者は常に、なんで無能な部下しかいないのかと嘆くが、独裁は必ず愚劣な部下を生むのである。
・41.6  大祖国戦争 第二次大戦というのは70%以上はほぼナチス対ソ連の闘いで、フランスなど大陸ヨーロッパはあっというまに蹴散らされてしまうし、イギリスもすぐに無力化されている、アメリカは実際は戦争の態勢が決してから協力しただけで、ノルマンディーがなくてもソ連の勝利はほぼ決定していた。太平洋戦争も、日中戦争の後の日本の暴走の後始末のようなものである。
 モスクワ防衛戦(バルバロッサ作戦)、レニングラード攻防戦、スターリングラード戦、クールスク戦(ナチスはタイガー、パンサーの新型戦車を導入、しかし遅すぎた)、スターリングラード反撃戦(コードネーム、ウラン)
 45.4.30 ベルリン制圧 ヒトラー自殺
45.9.2  日本降伏 ソ連の死者は3000万ほどで圧倒的
 戦後、スターリンは社会主義を強化、再粛正
「共産主義の発展により、国家は無くなる」というマルクス共産主義の否定。
・45年にはアメリカとイギリスはソ連に196個の核ミサイル攻撃作戦を作成していた。
※日本が核攻撃をされた最大の理由は、日本が核ミサイルを持っていなかったため。
・52~ 帝国と戦うのではなく、帝国の内部の紛争お起こさせるという方針変換 スターリン
・53.3.5 スターリン死亡
・91 ソ連崩壊 7年で二度のデフォルト、国債の支払い停止

市場文化の課題
創造の自由⇔文化インフラの予算の削減(ソ連は文化に融資をしていた)
検閲の廃止⇔スポンサー、消費者に依存する文化
文化の国際化⇔文化レベルの一般的な急激な低下、俗悪化
宗教の復活→市場主義のモラルを補完するもの?カルト化しやすい