2018年8月8日水曜日

1948 人間失格

 知らない人のほうが少ないのじゃないかというくらいの作品ですね。まぁ読んだ、という人は5%くらいしかいないのだろうけれど。

 実はワタシ人間失格は3回読んでると思いますね、ワタシは同じ本を何度も読まない主義なんです、それは何度も読むと、それにハマりすぎてしまうというか、自分がなにか書こうとするときとかにそれに影響されすぎてしまうってことがあるからなんですね、特にいい作品とかだと、もうそれしか読めなくなって他のものに興味が無くなってしまうってことも怖い、あと多少つまらないと思っても自分の知らないものを読んだほうが新たな発見があったりすると思うからです。


 この本はその自分ルールの例外なんですが、理由があります。まず最初に読んだのは中学の読書感想文でいくつかの作品が指定されていて、仕方なく読みました。なんで人間失格にしたかというと一番薄い本だったからですね(他はたしか金閣寺と暗夜行路だったかな?)ほんっっとにワタシは晩成っていうのか、ちゃんと自我が目覚めるのがめっちゃ遅くて、自分で主体的に本を読んだのはたぶん高2くらいまで無かったですね。初めて自分で金を出して買った本は吉川英治の三国志、たぶん三國無双をやってて元ネタが知りたくなったのですね。自分で本を読むという発想が無かった。
 もっというとワタシは大学受験まで勉強、っていうことを殆どしたことが無かった、高校受験の時も、塾に行かされてたけれど、塾以外で勉強なんてほぼ一度もしたことがありませんでした。割と体育会系だったのですね、たいして上手くもないのに体育会系という典型的だめパターン。

 
 とまぁそういうわけで読むのが面倒だったので、ペラペラペラとめくって、最後の解説、みたいなのを殆どコピーして読書感想文にしました。本当の感想は、なんだこのしみったれた暗い物語は?というくらいしかありませんでした。それと性の知識が無かったので内容が本当に意味がわからなかった。(これもほんとの話でワタシはセックスってものが高3くらいまでどんなものかわかってなかった)
 とにかくもっと面白いマンガ読ませろ、くらいの感想。ひとつだけ「ワザ、ワザ」、というセリフだけが頭にひっかかった。
 まぁワタシはひどい例かもしれないけれど、中学生にこの人間失格の内容が理解出来るわけねーじゃんと今でも思います、なんでこんなのを読書感想文に指定するのだ?もっとわかりやすくて読書に興味持たせるような作品を選ぶべきですよ、アースシーとか、せめてユーゴーとか、エンタメ要素もあるものを選ぶべき。


 で、大学に入ってからですかね、そういえば人間失格ってペラペラめくっただけで何も読まなかったな、と思って再読しました。大学時代はそれまでと打って変わって、とにかく古典作品を読みまくるという、図書館生活をしていました。受験勉強時代に、芥川の小説が、国語の問題に出ていて、初めて、アレ・・・、芥川先生・・、文章うまくね?っていうことに気づいて、くそったれ受験終わったらめちゃくちゃ本読んでやるって思ったのですね。


 でもこの時の印象もあまり残ってない、当時ドストエフスキーにゴリゴリにハマっていた時期だったので「罪、の対義語が罰なんじゃないか?」 というセリフだけは鮮明に覚えています。他はあまり・・・、たぶん当時のワタシは硬派の時代だったので、色恋ものってだけでケックソが、って投げていたのだと思います。「悪霊」「罪と罰」みたいな犯罪と革命、特に革命に憧れていた時代だったのですね、女?クソが。軟弱者め!!っていうこんな調子。



 そして現在、革命熱も無くなってようやく、あぁ~なるほどね、こんな小説だったのかって読めるようになりました。

 今読むと、太宰はもうすぐ自殺しようっていう時期なのにものすごういバイタリティで仕事をしてるなってのが一番印象に残ります。普通もうすぐ自殺しようなんていう人間は、無気力というか、やる気を失っているものですけど、めちゃくちゃエネルギーを使うような作品を書いてる、すごい元気じゃん。って思う。他にいないんじゃないですかね?もうすぐ自殺ってときにそんなに精力的に活動するっていう人間は?カート・コバーンだって晩年はやっぱり落ち目でしたもの。ジム・モリソンだってそう。

 内容は何度も書こう書こうとされてきた、太宰が脳病院に入れられて、完全にキチガイ、という烙印を押されてしまったという時代の経験をベースに作られたもの、さらにそこに、形而上的というか、ちょっと哲学っぽい色合いが追加されております。
 
 淫売婦通い、心中未遂、アル中、ドラッグ、自殺未遂、精神病院・・・

 と何冠王とるのだ、というくらい、世間でいわゆる、クズ人間、と言われるタイトルを総なめにしていくのですが、この主人公が漫画家、なんですね一応。それが戦後っぽいところですよね。戦後になって漫画家っていう職業が、確かにソレ以前にもあったのですが一般に出てきた、貸本漫画とかそういう時代。たぶんろくでもない物書き、最底辺の芸術家として、エロ漫画家になっているわけですが、それが妙にグサっとワタシには刺さりますw
 春画をトレースしてエロマンガを書いて食いつないだ・・という描写がありますが、ものすごいリアリティがありますね、たぶん本当にそういうヒトがいたんでしょう。
 現代でも、ほかの作品トレスして同人エロ漫画を作って食いつないでるヤツがいますものw まぁそれでもマシなほうで、他の人の作品を無断アップロードしてネットの広告で稼いでる輩もいますが・・。まぁこの後者のほうは食いつなぐためにやってるというより組織的な犯罪の匂いがしますけども。
 モルヒネ中毒になっているときはペンがどんどんはかどるぜ!みたいなシーンもあります。確かにワタシも太宰の若い頃のジャンキー時代の尖りきった作品のほうが、結構好きかもしれませぬ。


 ジャンキーものってのはでも減りましたよね、90年台とかものすごいジャンキーものの作品って多かったのに。ジャンキーの数自体は減ってないはずなんですが。規制が厳しくなってジャンキーものはアウトにされたのかも。
 自殺をする気力さえも失われてしまって、本当の無気力になってしまった、というこの小説の主人公と同じようなことなのかもしれません。死ぬ気力もない。