2019年11月25日月曜日

1926  ベンスン殺人事件  ヴァン・ダイン

 ヴァン・ダインのデビュー作。

 これまでのミステリー、とは違う、心理分析、を主軸に添えたおそらく元祖と思われます。

 心理分析ってのは、物質証拠、の逆ってことです、つまるとこ、足跡、とか痕跡、ほこり、床に落ちたマッチ、はしっこの破れたカーペット、グラスに残った睡眠薬・・みたいな物的証拠ではなくて、この人間は、こういうことをするタイプの人間ではない。みたいなことで犯人を特定するのです。

 トリック、が殆どないってことですね、犯人の性格分析みたいなことで、捜査をしていくってことになります。

 おわかりになったかと思いますが、これって、ミステリーの書き手としては非常にやりやすいですよね、だって正直やりたいほうだいですもの。乱暴な言い方をすれば、紫のネクタイをするやつは、ブラックのコーヒーを飲まない、ほらね?だから犯人じゃない、みたいなことです。
 それは小説だから成功するけど・・・って話ですね。

 よって、そんな捜査をするには、天才のひらめき、に頼らないといけないわけで、ファイロ・ヴァンス、なる衒学趣味で、横柄、偉そうで秘密主義、そして芸術至上主義でグルメ、女の香水からタバコ、古代文明の彫刻から文字まですべて知ってるというような、超人天才探偵が登場します。事件の始めっからすべてがわかってしまう、というタイプ。もちろん金持ちで美形。

 ある意味マンガっぽいキャラ付けになってますね、腐女子が好きそう。


 実際には心理分析、だけでなくて普通の捜査などもします。むちゃくちゃのようで無茶苦茶ではない、名作として残っているだけのことはある。


 少し前に黒死館殺人事件を取り上げましたけれど、たしかに小栗虫太郎は相当ファイロ・ヴァンスに影響されてますね。犯罪捜査は物的捜査の時代は終わって心理捜査の時代に入ってるのだ・・ってのはファイロそのままです。

 キャラ性が強い、ってのもあって後世への影響は甚大・・でもなぜかベストミステリー100、みたいなんにあんましヴァン・ダインは入ってません、やっぱしちょっとペダンチックなノリが一般受けしずらいのかも。詩、やラテン語、ギリシャ語の引用も普通の人にはただ読みづらいだけですからね。