ダシール・ハメットのハードボイルド小説でありデビュー作。
ハードボイルド小説、っていうものの原型、パイオニアともいえる作品であります。読んだこと無くてもこのなんかべっとりと血のついたようなおどろおどろしいタイトルには覚えがあるのではないでせうか。あと「火刑法廷」ですかね、なんか目に刺さるタイトルってのは。
実際その通り血まみれの作品でして、ミステリーというカテゴリに入れられたりすることはあるものの、ほとんどは推理というよりはドンパチでして、いわゆる「刑事物」の映画みたいな感じ、正しくは「刑事物」みたいなジャンルはすべてこの「血の収穫」から影響を受けているといっても良いでしょう。
最も陰ながらパクられてる作品であるらしく、たしかにこの血の収穫、っぽいお話ってのはめっっっっっっっっっちゃくちゃ類型がある、アメコミ、ってのもこの小説から来てるという気がします。
おおまかなストーリーは、とっても治安の悪い街があって、大金持ちが警察も裁判所も議員までも買収していて、さらにそこにギャング団がいくつもあって抗争を繰り広げておる。そこへ訪れた探偵が街からギャングどもを一掃するように画策する。エロい娼婦、個性的なギャング団のボス、大金持ちの社長、無口で全然しゃべらない味方、ジャンキー、などなど、いかにも「アメリカ」、この小説「アメリカ」っていうタイトル??って思うくらい、アメリカそのもの、アメリカのエンタメそのものって感じの物語です。
2万回は聞いた気がしますねこの話。黒澤の用心棒、荒野の用心棒、ダーティハリー、ぜーんぶこれと同じです。
作者のダシール・ハメットは、本当にガチの探偵として働いていた人間、さらに戦争にも行っていて、暴力、のそっけなさ、あっけなさ、みたいなのが本当に人が死ぬのを何度も見てきて、自分も殺したことがあるような人間の、ドライな感じを持っております。ハメットのこのドライな文体、ってのがハードボイルド、っていうジャンルになったというわけですね。ガチで探偵をやっていた人にはでもかなわないですね、ちょっとした描写が見てきた人間のそれです。
オートマチックを壁の梁のところにかけて置いておく、それは手をあげろ、と言われて手を上げたときに銃がつかめるようにするため・・・
こんな描写は、普通には思いつかないですよね。
この1929年のアメリカはご存知世界恐慌の時代、その夜明け前。最悪の悪法こと「禁酒法」がモラルハザードを巻き起こし、ギャングが跋扈し、腐敗が進み、そしてすべてが爆発、第二次大戦の火種が生まれて・・・・っていう、えぐえぐのえぐの時代ですね。まさにそんな時代にうってつけのヴァイオレンス小説です。