2022年9月12日月曜日

1999 死刑執行中脱獄進行中 荒木飛呂彦短編集 荒木飛呂彦

  アラーキーの短編集。アラーキーはもちろんJOJOの連載で忙しいので短編集が出るのは非常に稀。というか漫画の短編集ってのはそもそもあまり出ないものです。


 岸辺露伴から吉良吉影まで、JOJOのキャラも登場して、やっぱりJOJOですやん、ともなりますが、一番の違いはスタンド、というシステムじゃないってこと。

 ただ単に不思議、であって、スタンド能力ではありません。

思えば、別に、スタンド、という枠組みなんて無くても、超能力、超自然的なことは起こせるわけです。でもスタンドを出したほうが読者が喜びますしね。


 やっぱりクオリティは高いですねー。ワタシがいま唯一連載を追いかけてる漫画家です、ほかはみーんな休載。ワンピースも面白いのかもしれませんが、なかなか手が伸びない。たしかに面白いのかもしれんが、何か新しい、別なものを見せてくれん気がする。アラーキーだけが、マンガを別のステージに持っていこうという意思が感じられます。


「オレはあんたの 道徳 には興味ない、正義だろうが悪だろうがオレにはどうでもいい」


 他のマンガにはこういう痺れるセリフってものはあんま見ませんね。アラーキーはこの吉良吉影っていうキャラが相当気に入ってるみたいです。岸辺露伴は漫画家で自分のコピーなのでよく出てくるのは当然ですが、この吉良吉影も作者のもう一人の分身なんでしょうね、芸術と静寂が好きな偏執狂殺人鬼

 

 幽霊になった吉良吉影が、幽霊として、何を、求めればよいのかを探す物語です。21世紀っぽいテーマですなぁ


 ニーチェは言いました、神は死んだ、神の救済を願うなんて馬鹿げてる、善と悪、そんなものは神が決めたものではなくて、人間が勝手に決めたもの。死後の世界などよりも、今存在していること、今生きていることこそが大事なのだ。ワーグナーもドストエフスキーもトルストイも、最終的には神の救済という結論に落ち着いた。


 他のマンガはだいたい19世紀に完成した物語の枠組みでやってますけども、アラーキーだけがニーチェ後の神が死んだ世界でマンガを描いてる気がするのです。

 大衆はやっぱ善悪のはっきりしたわかりやすいものを求めるので人気では負けてるように見えるけども、100年後何が残るかといえば、ワンピじゃなくてJOJOだと思いますね。