短編をひとつずつレヴューしてくのは煩瑣なので年単位で書くことにしました。一口レヴューです。
1940年、太宰は仕事しまくってますね、週間連載の作家のようにいろんな雑誌にバリバリと作品を残しています、玉石混交でして、走れメロスなどの名作もあれば、ただの日記みたいな作品もありつつ。
本人も曰く、ロマンス、と生活、の板挟みに苦しんでいる時期
女人訓戒
太宰お得意の女性、への考察。太宰はずっと女性の性の解放というテーマを描き続けています。デカダン、と真実主義
兄たち
青森の素封家の兄弟たち、それぞれ個性的ですが、大金持ちのコドモという引け目をみんな背負っているのであります
俗天使
女学生、の後日談のような作品
春の盗賊
この時期の太宰の素直な気持ちが表れた秀作、若くて死にたいと思うのだがそれが出来ない、ロマンス、の中に生きようとするのだが、家族を養ったり、生活、の為に小説で金を稼がないといけない。好きなことを仕事をにして生きるということは、好きなことを金と交換に売ってしまうということでもあり、太宰っていう人間は、本当に誰よりも小説、物語を愛していたのだということがわかります・・・
鴎
戦時下の作家としての太宰の気持ちが出ているワタシとしては非常に重要な作品。
丙種 身体上極めて欠陥の多い者
兵役検査で丙種とされた太宰、わかっているか、オマエは人間のクズというレッテルを張られたのだぜ。
才能があっても経験が無いと作家にはなれないものです。現代にはそういう才能人が溢れている、才能はあって、情熱もあるけれど、悲しいかな、人生がない、何を言っても、空っぽでがらんどうな響き。太宰はもちろん抜群の才能があり、また生まれた時代も抜群に良かった、戦間期、戦時下の作家としていつまでも残っていくでしょう。
あなたに会えて良かった、あなたの支えがあって、大企業の内定が取れました、こんな経験や人生では、物語にはならないのです。
女の決闘
女の決闘という森鴎外訳の短編小説を題材に、それを改作したり付け足したり、解説したりする、太宰としては全く異色の作品でありますが、キラキラと宝石が光る快作であります。太宰はずっと女、というのを主軸にして描いてきて、女性を描かせたら、やはり無双ですね。普通の作家の考えるよりも、何周も何周も下の螺旋階段まで降りている、そのレベルまで達しています。
老ハイデルベルヒ
「ロマネスク」、執筆時の思い出的な作品。タイトル由来は不明。
誰も知らぬ
これもまた、女学生特有の心情、駆け落ち願望みたいなのを鮮やかに描いた作品
老人独笑
ある盲目の音楽家の日記からなる作品・・・非常に難しい
きりぎりす
美しいイキモノ、を求める妻と、堕落する芸術家の物語。このセカイどこかには美しいものがあるはずだ、という信仰、みたいなものが、聖書を読んだ後の太宰には少しづつ出没するようになります。宗教的な女性、というキャラクターは、リアリティに乏しいので、これまでのリアルな女性像という太宰の作風からの転換期でもあります
ろまん灯籠
冒頭に注釈してあるように、名作ではなくて、好きになれる、作品。太宰には珍しい、軽さ、を持った作品です。