2017年11月5日日曜日

1939 花燭  太宰治

 太宰治の女中シリーズというようなもの。
 
 この短編は太宰が左派主義活動をしていた黒歴史についてのちょっとしたオマージュも入っていて、太宰が若いころに左派に傾倒して活動家、をやっていたということが裏にあります。

 女中の弟、の発言や、太宰の家に居候みたいに集まってくるニート集団もその関わりであるということなんです。

 戦前の日本の社会主義者というのは、本当に触れられることの少ないテーマでして、なぜかというにやっぱりGHQがその手の資料とかをすべてなかったことにしたんでしょうね。軍国主義もダメだけれど、社会主義はさらに発禁処分である。戦争が終わって社会主義が勃興することをGHQはさらに警戒したというわけでしょう。

 日本が戦争に向かって極右街道をまい進したことからもわかるように社会主義は敗北しました

 「転向」

 という言葉は左派には重い響きを持っていて、自分の主義などを曲げて行くことです。この1940年頃ってのは、まさにその「転向」を余儀なくされた時代だってわけです。


 貧しく弱いからといって神はそれを愛さない、その中にサタンがいるからである
強き者の中に、善がある、神はこれを愛するのである。


 という名文があるんですが、まさにこれこそ「転向」、主義を変えたことを示しているわけですね。貧しく弱い人間を救う、というのが、共産主義、社会主義のかなりの根本的な理想なわけですが、貧しく弱い人間が、善人だとは限らない。むしろその中にサタンがひそんでいる、これはのちのち共産主義が崩壊するなかでさらに明らかになっていくことでありました。

 太宰治っていうのは、第二次大戦、の時代の作家なんです。まさにその時代を体現している作家。夏目漱石が明治、という時代そのものであるように、第二次大戦という時代を代表する作家。そりゃ、今の時代の作家が太刀打ちできるわけはないよな・・・