2012年11月6日火曜日
ボツネタ 消化コーナー Shangli La’(s)
Shangli La’(s)
黒猫は死ぬ時は世界から消える
魔女
「ねぇシャングリラってしってる?」
誰だっけこの子・・・
「サーカス?」
「違う、もっといいところ、一緒に行かない?」
「・・いや・・・えっ?」
「行く?」
「・・いいや、今日は・・忙しいから」
「そう・・・、ちょっと屋上に行こうよ、空気悪いから」
(なんでそんなさみしい顔するんだよ)
屋上、風が強い
「シャングリラ・・。一緒に行けたら良かったのに、さよなら」
女の子、羽が生える、飛び降り
「・・・イヤァァァッァァァ」
保健室、ベッドから起きる、すぐに立ち上がる、イツッ!・・肩のところに切り傷・・・
先生が入ってくる
「先生!・・・・あの子・・死んじゃったんですか?」
「・・・あの子って?」
「あの子です、飛び降り自殺した」
「えっ!どこで?」
「今、さっき、校舎の上から飛び降りたんです」
「ほんと!?見に行ってくる」
イタイ・・・包帯で巻いてある。なんだろう・・少女の笑顔だけ思い出す・・・あの子、誰だっけ・・
「誰も自殺なんてしてないじゃん!もう、寝ぼけてるんだよ」
「ほんとですか?!・・・私。どうしちゃったんですか?」
「・・・落ち着いて聞いてね、あなたはバレーの授業中に、癲癇を起こして倒れたの」
「・・てんかん?」
「まだ正確なことはわからないから、病院で精密検査受けてもらうことになります、保護者にも連絡を取ったから」
「・・私死んじゃうんですか?」
「何言ってるの、そんな簡単に死んだりしないよ、検査をしっかり受けてそれから考えれば大丈夫」
「・・・この肩の包帯は?」
「気を失って倒れた時に切ったみたいね、それは大丈夫すぐに治るくらいの傷だから」
救急車が来る
「救急車だ・・、私救急車って初めて乗るな」
「さっ荷物も持ってきてもらってあるから、行きましょう」
検査
「詳しいことは検査の結果が出るまでわかりませんが、軽度の癲癇ですね。激しい運動などは控えてください、あと酒、タバコなどの刺激物も、まぁ未成年だからそれは心配ないと思うけれど」
「先生、正直に言ってください、私は死んじゃうんですか?」
「えっ?まさか、大丈夫ですよ、貧血みたいなものですから、そんなに心配しなくても」
「いいんです、別に死ぬのは怖くないから本当の事だけ教えて下さい、誰かに口止めされてても、私の意思ですから」
「本当に大丈夫です」
「セカンドオピニオンもらいに行きます、私だけで、紹介状書いてください」
「・・・そうですか、じゃあ神経科で一番有名なところへ・・」
医者はカキモノをしてる・・・
「その・・癲癇っていうのは、変な幻覚を見たりしますか・・あまりにも生々しい夢みたいなものを」
「・・そういうこともあるみたいですね、インスピレーションみたいなものを得るって、芸術家や才能ある人に多いですからね」
「そうなんだ・・じゃあやっぱり夢か・・、あっあの紙と鉛筆ください」
記憶に残ってる顔を描く・・・鮮明に覚えている
「上手ですね、自画像、はい、検査の結果はこちらから連絡します」
「自画像?」
立ち上がってトイレに駆け込み鏡を見る、それは自分の顔だ。
「・・・・誰?これが私だっけ・・・」
学校に行く、教室に入るが、シャングリラがいたような気がする隣の席が存在しない。
「ねぇ、この学校にさ・・こんな顔の子いなかったっけ?笑顔が印象的でさ、目がさわやかで・・透き通った声をしてて」
「何そのギャグ、どうみても自分の顔じゃん、上手いね、相変わらず、また自分のルックス自慢ですか?」
「私だよねやっぱり・・・、そう私に似た人っていないかな?」
「ユキに似た人?・・・・・ん~~~~~~~、この学校で?」
「いやどこでもいいや、どこかに、知らない?」
「ん~~~~~~~、芸能人でいうと・・・・・、シャングリラのボーカルに似てるかな」
シャングリラ! 思い出した、そんな事言ってた。
「シャングリラって?バンドなんだ?」
「そうだよ、結構最近人気の、たぶん聞いたことあるんじゃない?声も似てる気がする、死んじゃったけどね」
「えっそれいつの話?」
「結構最近、原因不明、死体とかも見つかってないし、でもたぶんあれだね、伝説つくろうと思ってさ、なんか全部闇の中にするように黒い力が働いてるよね、尾崎豊みたいに。実際それで最近売れてるんだもん、聞く?携帯に入ってるよ」
「聞く聞く」
・・・
shangli la
いい思い出だけ
その胸の中に閉じ込めろ
shangli la
汚れる前の
ボクらの事を忘れないで
shangli la
キミの泣き顔ですら
忘れられないよ
・・・
「この曲が一番有名かな、アルバム二枚しか出してないんだけどさ、実際にはバンド名は無いんだよね、この曲が一番売れたからシャングリラって呼んでるだけ」
「・・・ちょっと聴きこんでみるね・・」
屋上で聞いてるユキ、確かに覚えてるのだ・・
思わず歌を口ずさむ
「うま~い(拍手)」
一段高いところから俊が降りてくる。ギターの練習してたらしい。
「あっルックスもすげぇ真似てるんだ、すごい、絶対オーディション受かるよ、すごい似てるもの」
「別にモノマネやってるわけじゃないよ」
「そうなん、それは失礼。じゃあもうちょっとオリジナリティ出したほうがいいんじゃないかな」
「そういうわけでもない、ただくちずさんでただけだよ」
「ほぉ・・・、上手いのに、もったいない、うちのバンドでボーカルやる?バンドといってもまだ俺一人なのだけれど」
「考えとく・・・シャングリラって知ってる?」
「今の曲でしょ」
「あぁうん、そう・・こないだ癲癇で倒れちゃってさ、変な夢を見たんだよね」
「癲癇?かっこいぃなぁドストエフスキー先生じゃんか」
「ははっ」
ユキはニコっと笑う、あの肖像画そのもの。俊はドキっとなる、初めてまともに顔をみた。
「どんな夢なの?」
「自分が自殺する夢、あそこに立っててさ、孔雀みたいな光の羽が生えてさ、飛び降りてしまったの、今私のことヤバイやつだと思ったでしょ」
「うん、てんかん持ちって事自体でかなりヤバイやつだもの、でもヤバイ奴大好きだからOK、なんで自殺なの?」
「・・たぶん私ももうすぐ死ぬからじゃない?そういうのを見るっていうじゃん死ぬ前に」
「いやそういうことじゃなくて、羽が生えてんなら飛べるじゃん」
「あっ・・なるほどね・・・、気づかなかった。そうだよな、羽が生えてから飛び降りたんだったら、普通飛んだと思うよね」
「いいなぁ癲癇って、クスリなしでトリップ出来るんだものね、アレよりも気持ちいいんでしょ?」
「・・・ん~、知らない」
「あっ、まだアレも経験済みじゃないんだ、ごめんねうぶな人にこんな話して、いつも付き合ってる人間がヤバイやつばっかだからついそのノリで話してしまうよね」
「あります」
「あらそう」
「なんかむかつく」
「むきになるところからして生娘なんじゃないの?」
「ち~が~い~ま~す」
「別にどっちでもいいけど、シャングリラ好きなの?」
「うん、結構・・、そのもう一人の私ははっきりと私にシャングリラに行こうよ、一緒に行かない?って言ったんだ、私はそれを断った。シャングリラっていうバンドはよくは知らなかったけれど、たぶんちらっと何かで目にしたのが、出てきたんだろうね」
「ふ~ん・・別にバンド名じゃなくてもシャングリラっていう名詞は存在してるでしょ?なんか・・・楽園みたいなところという意味で」
「そうそれも知ってるけれど・・でもそのシャングリラのバンドのヴォーカルに私は似てるんでしょ?声も、ルックスも、そしてそのヴォーカルは最近死んだ、原因不明で、あまりにも、状況が適切すぎるじゃん」
「なるほど、そうか・・・いたんじゃないか本当に。そいつ」
「えっ?」
「その飛び降り自殺した人、みんな忘れちゃったんだよ。死んだ瞬間に、世界から消えた、記憶も、いたっていう証拠もすべて無くなった」
「・・なんでそう思うの?」
「・・・・なんでだろうか、そう思ったからだね、だって・・」
「ユキ」
「ユキの中にはいるんだろそいつ、確実に」
「いる」
「じゃあそういうことだろ」
「どういうこと」
「死ぬってたぶんそういうことだと思う」
「・・・違うよ、私、お母さんが死んだけど、そんなんじゃなかったもの。もっと物質的で無感動だった、なんか悲しいとか、さみしいとか、そういうのってつくり話だなって思った、ほら純愛ってのがつくりものなのと同じでさ。なんだこんなものか、こんなものをみんなオオゴトみたいに言ってたんだってね、こんなものただの物質じゃんかって感じ」
「それは他人の死だろ、違うよ、自分が死ぬってことはそういうことなんじゃないってこと・・・じゃあ、けっこういつもおれはここでギターの練習してるよ」
「・・名前は?」
「まだにゃい・・嘘、猫ってことで」
「猫?」
「CAT」
「自分が死ぬってこと・・・」
電車に揺られて夜の街。
「なるほど・・・」
駅前ですれ違った人・・あれっ(あいつ私だ)
街を追っていく
「待って!」
あいつは逃げる・・・
「コラ、なんで逃げるんだ」
二人はどこかしらぬ竹やぶまで走りこむ
「はぁはぁ・・・しつこいっ!警察呼ぶよ!」
「そっちだって!・・はぁ・・・逃げすぎだよ」
「えっ・・・」
「やぁ・・・死んだはずのヴォーカルさんでしょ、私のドッペルゲンガーの」
「嘘っ・・・まじでいるんだ、自分って・・・」
「雑誌にばらしたりしないから安心して、本当は死んでないのに、死んだっていってプロモーションしたんでしょ、よくあるやり口だよ、オアシスは解散した、でしょ」
「ははは・・だって売れなかったのだもん、曲は悪くないでしょ?」
「うん、私は好きだよ、何してるの最近は?人前には出れないんでしょ?」
「紅白に出るんだ、最初から決まってるの、それまでは海外にいく予定」
「そうなんだ」
「・・・気持ち悪いね自分としゃべってるみたい、ドストのダブルみたい」
「本読むんだね若いのに」
「キミだって若いじゃんか」
「まぁね。最近癲癇起こしちゃってさ、もう一人の私を殺しちゃった。今私をやばいやつだって思ったでしょ?」
「自分のダブルに会うってだけで相当やばいもの、怪談ですよ」
「そう、でも70億もいればほぼ同じデザインの人間なんて絶対いると思うけどね、むしろいないほうが驚くよ、70億種類違うデザイン考えるほどカミサマも暇じゃないでしょう、アルゴリズムで自動的にデザインを変えてるんだと思うけど。ミクロ無限なんだ、人間の顔ってパーツはみんないっしょなのに結構違う、バンドだって編成はだいたい一緒でもぜんぜん違う、声が最たるものだね、声の周波数的違いなんてほとんど無いのに、全然違う・・・」
「科学的なの?もう一人の私は?」
「割りとね」
「それで・・・何か用事でも?」
「もう一人の私が死んじゃったんだって、シャングリラに行ってさ。シャングリラって何なの?」
「知らないよ、事務所が決めたんだもん、kinksの曲じゃないの?shangli la la la la la~~♪」
「なるほど、なんで歌なんてやってるん?」
「歌ってると気持ちいいじゃん、何も考えないでいられるし、歌ってる時だけが、自分と会えるんだ、どこまでいっても私は自分にしか興味ないのでね、キミもそうじゃない?他人なんて自分に反射しないと捕らえられないもの、私が私と二人っきりになる感覚、あのトランス状態、自分と自分でいる、あれは最高だね・・」
「私は少しは他人に興味あるよ」
「言い方だよ、そりゃ私だって彼氏のひとりふたりいます、極論そうだってこと。別に歌えればなんでもいいから事務所の言うとおりにやらせてるの」
「ふぅん」
「もう一人は死んだって三人目が死んだということ?それがなんだってのさ、そりゃいつか死ぬでしょう」
「うん説明めんどい・・・別に何がいいたいってわけじゃなかったんだ、ただ見つけた!と思ってさ、じゃあ紅白がんばって、私は見ないと思うけど」
「私だって紅白目指して歌手やってるような人間じゃないもん・・・、けどのガキに言っておくけど、いいコトをするにも金がいるんだ。悪いことしないと金は手にはいらないのに、どういうわけかそういう世界になってしまったの。キミのほうは何やってるの?」
「普通の高校二年生だよ、特に何もしてない」
「そうか・・若いんだね」
「いくつ?」
「24」
「はぁ・・8才も違うんだね」
「っつーことはまだ16?まじかよ、犯罪じゃん」
「犯罪じゃねぇよ」
「無理やり犯せば犯罪でしょ、あとお金でつっても」
「無理やり犯せばなんでも犯罪です」
「なるほど・・・・そだね、こんどゆっくり飲もうよ、来年になったら。結構・・友達になれそうな気がする」
「あぁうん・・飲めないけどね」
「下戸?」
「未成年」
「かたっ!かたいなぁもうひとりの私、正気の沙汰かよ・・・これ私の番号、連絡ちょうだいね・・・他にもいるのかな?」
「わからない・・ねぇちょっとカラダ借りていい?」
抱きつく
「・・背、私のほうが高いんだね、かっこつかないや」
「・・たまに強烈な寂しさに襲われて適当にカラダを預けちゃう?」
「うん」
「私もそうだった」
「死ぬってことがどういうことかわかってる?」
「・・わからない、 she said she said 」
「わかったらもっと怖くなった、たぶん死んじゃったもう一人の私を覚えてるのは、この世界に私しかいない、私が死んだら、私が生きていたというのも全部消えてしまうんだ、無かったことになって、忘れられちゃう・・・私のことを忘れないでね・・」
「うん、忘れない、だから笑ってよ、絶対に笑顔は忘れないから」
ぐちゃぐちゃの泣き顔の笑顔。
「ありがとう」
歌手のほうのユキは消える。
猫とユキはまた屋上
「そういうわけなんだ」
「・・・すごいな、大丈夫だった?精神的に、それって発狂コースなんじゃないの?」
「・・わかってた、最初から、言おうと思ったの、あなたは死んだんだ、ここにいちゃいけないって、でも・・わかんないな・・・もっと」
ユキは立ち上がって猫のワイシャツをぐっとつかんでキスをする
「・・こういう感じ?」
「・・全然わかんない」
「じゃあそれだよ、全然わかんない」
「・・・・・・ねぇ、今までの全部、好きな男を落とすためのつくり話とかじゃないよね?だとしたら・・すげぇストーリー構成能力・・」
「ははは、あるいはそうかもよ、ドスト先生のあとをつごうかしら・・・・やっぱバンドやろうよ、シャングリラ2、ちょうつまんないハリウッドアクション映画みたいでしょ?」
「1はどこにあったの?」
・・・おやという顔(世界はもうシャングリラは存在していないことになってる)
shangli la
いい思い出だけ
その胸の中に閉じ込めろ
shangli la
汚れる前の
ボクらの事を忘れないで
shangli la
僕はキミの泣き顔ですら
忘れられないよ
ねぇ shangli la
ボクの shangli la
「この曲知らない?」
「知らない、初めて聞いた、自作?いい曲じゃん」
「・・・でしょ?一緒に作ったんだ、私の大切な友達とさ・・」