ヘンリー四世はシェイクスピアの歴史劇の中では中盤の作品、シェイクスピアのピーク近くの作品でして、歴史劇の中では最も人気の高い作品なり。
有名なフォルスタッフという、道化が登場しますが、シェイクスピアの道化の最初の完成形って感じです。
ヘンリー四世といいつつ、主役はヘンリー五世でして、王位継承者でありながら、場末の飲み屋で老いぼれの巨漢のデブの道化フォルスタッフ、淫売、盗賊、盗人などと一緒に放蕩三昧をして暮らしている。
しかし国は内乱が勃発中。放蕩息子であるヘンリー五世、はその内戦に参加して敵の一番の猛将であるホットスパーを倒して一気に名声を獲得・・というのがパート1。パート2、は蛇足というか、明らかに人気が出たために続編をかくことになったというのが見え見えです。
それほど当時、フォルスタッフが大人気を獲得したのは確実であり、以降、シェイクスピアといえば、道化、っていう感じで定着したのでしょう。
第一部、放蕩息子が、暴れ回りつつも、最後には英雄となる。っていう物語、これはシェイクスピアの一番好きな構図なんだと思いますね。下品な人間や、ムチャクチャなヤツ、を描かせたら右に出るものはいないのですし、シェイクスピア自信、この下町しゃべり、みたいなダイアローグを書くのが好きなんでしょうね。
この型、ってのはやっぱしすごいわかりやすいですし、遊び人が実はめっちゃ強い!ってのは今でも繰り返し使われるネタであります。織田信長と同じスタイルですね。破天荒型であり、実は頭脳明晰、めっちゃ強い。これは人気が出るに決まってます。
実際ヘンリー五世はフランスの征服王でもあって、人気も高いです。これもやっぱ信長と似てますね。しかし34才の若さで戦場で病死。これもちょっとかっこいいです。
ハル王子はそういうわけで、わかりやすいヒーローの型なのですが、フォルスタッフというキャラクターは他にまったくフォロワーがいないまったく特異なキャラです。白髪交じりの老いぼれで、デブ、のべつしゃべりまくり、エロじじぃ、ウィットにも富む。このタイプのキャラって他にはガルガンチュアくらいでしょう。このタイプのキャラは、近代、と供に消え去った。ルネサンス特有のキャラなんです。
近代、となると、勤勉こそ美徳。フォルスタッフみたいに怠け者で、世間をなめていて笑い飛ばすっていう、粋、なキャラクターは悪となり、真面目に働くヤツこそ良し、っていう実利主義になってくのですね。今でも、遊び人で、働かず、ってのは、有無を言わさず、悪。プー太郎、NEET、クズ。ってすぐに決めつけられます。道化、やトリックスター、みたいな面白いキャラが入り込む隙間は無い。
ルネサンスは、近代と中世がまだ溶け合っていて、キリスト教は、ご存知の通り、金持ちが天国にいくのはラクダが針の穴を通るようなものだってわけで、清貧を美徳としてたわけです。
金持ちこそ偉い、カネこそすべて、っていうのが近代以降の価値観、ルネサンスには騎士道精神、キリスト教的精神、そして芽生え始めた近代の価値観。いろんなものが存在してるのですね。シェイクスピアの演劇には、いろんな人間、が登場するのはそういう時代を映してもいるわけで、演劇にかぎらず、やっぱルネサンスってのは黄金時代なんですよねー。