2016年8月24日水曜日

1911 innosence of father brown ブラウン神父のイノセンス   チェスタトン

 ブラウン神父シリーズはホームズと並んで探偵小説の初期の古典とされていますが、知名度では圧倒的にホームズには及びませんね。

 理由は至極簡単でして、ブラウン神父というようにカトリックの神父が主人公の宗教的色彩の濃い物語が、世界的に人気を獲得するはずがありません。まずプロテスタントには、受けないでしょうし、他の宗教もしかり。またホームズはダンディなイケメンで運動神経も抜群、知識も豊富、科学の知識も豊富、しかもジャンキーでありアウトローでハードボイルドと、いわばむちゃくちゃなイケ様であるのに対し、ブラウン神父はブサイクで地味で、チビ、ルックスのポイントは限りなく0に近い。女受けするハズがない。


  チェスタトンっていう人物は、これはワタシの感覚ですけど、議論のために議論するタイプの、イギリス人です。本当のところは、何にも信じてないというか、えげつない冗談、を言うためだけに生きてるって感じの、なんでしょうねーこの感じ・・、そんなに位の高くない悪魔みたいなタイプの人間だと思います。チェスタトンは小説に限らず論評やら評論、政治など、いろんなことにも手を出してますけど、おそらく実際に行動するということは絶対に無い。コトバ遊びだけで相手をやっつけてやりてぇっていういやらしい人間なんです。ほんとのとこは、何にも信じてないし、本音でしゃべってもいない。


 こう書くととってもクズみたいに思えますけど、クズだけど才能のあるクズ、悪魔的才能にあふれたクズなんですね。才能人だからって良い人間とは限らないし、天才が善人である理由もありません。最上級のクズ、クズのエリートです。

 ワタシはなんにせよ、まともな人間ってのが大嫌い、どっちかに振れてほしい。コワレタ人間こそワタシの大好物。

 イエスも言ってました

「熱いものか冷たいものであれ、ぬるいのは我慢ならない」と。



 チェスタトンがカトリック信者ってのもどーも胡散臭いです。つまりこういうことです、ずる賢い悪魔がいたとして、あんたは悪魔だからカミサマを信じないだろう?と聞くと、悪魔は、

「何を言う、おれほどカミサマを信じてるやつはいないね、むしろオレだけが真に神を賛美する、正当なカトリック信者である」って言うのです。
 
そうだね、カミサマなんて信じないね。っていうのは本音を言ってるわけで、悪魔は本音を言うわけはないというわけ。

 そぉいうえげつないユーモア、下衆ともとれるあてこすり、人間のいやらしい部分のクローズアップ、そういうのが得意なチェスタトンですから、当然、探偵小説にこんなに向いてる作家はいませんね。
 確かにこぉいう、悪の華タイプのクリエイターって現代ではまぁ見かけません。みんな一人残らずキレイゴトを吐く。

大地震の被害?建築関係の株を買えばいいじゃないか。こんなこと言ってたらすぐに干されてしまうのですね。


 ホームズがデータ、データの物質主義だったのに対し、もちろんブラウン神父は形而上学的なルートを辿って行きます。こっちの精神分析みたいなやり方、の探偵の走りですよね。そしてダークでオカルトチックです。これも現代まで長いこと人気のあるスタイルであります。