2016年8月13日土曜日

1996 ナポレオン  長塚隆二

 ・ナポレオンは1769年8月15日生まれ。
   つまるとこ、フランス革命の時に丁度20になる時に生まれている。こういうことが、革命の申し子、運命の子っていうわけ。この時より早すぎても、遅すぎても、革命の子、にはなれないのだから・・。
 革命が無く、家柄がすべてのアンシャン・レジームであれば、下級貴族のナポレオンは死ぬまで下級将校で終わっていた。

・フランスに植民、併合されたコルシカ島の出身。コルシカ人である。フランスの給費制として士官学校卒で軍人になりつつ、心の底でフランスを憎んでいるというわけ。
 コルシカ独立のために奮闘するが、結果的には島の有力者に殺されそうになって島を追われ、以降なフランス一筋になる。


・ナポレオンは古典文学と数学を好んだ。理系の才能があったよう。といっても当時の数学なんてたかが知れてるが・・。というわけで砲兵将校に向いていたのだ。

・身長169センチ、そこまでチビではない。

・家は親父が早死して子沢山で貧しく、貧乏生活には慣れていて、一日一食にも対応出来る、ストイックな人間。

・「生きることは苦しむこと、誠実であろうとすれば、自己抑制と常に戦い続けねばならない」

・敵は1つにしぼり、他とは有効や中立を保ち、戦力を集中する。

・ナポレオンの嫁のジョゼフィーヌはバツイチ子持ち、たいして美人ではないがエロい女で、要するにヤリマンであり、不倫もしていた。ナポレオンが一般の言うとおりジョゼを本当に愛していたかは不明、ナポレオンは割とインテリなので、ポーズかも・・。それか床上手でハマったという可能性も。


・ロゼッタストーンに代表されるように学問を保護した。エジプト学にも貢献、また対エジプト政策は、イスラム教を保護して現地の文化を守るという現地主義。


・ナポレオン戦争の時代はまだ火力が圧倒的でなく、小型火力とサーベルを持ったドラグーンが主力の時代。普仏戦争のころになると、火力が大幅にアップして騎兵はただの的になってしまった。日本、中国などは平和が続いて、火力競争に圧倒的に出遅れた(だからドラグーンが存在しない)。平和が続いた国は文明が遅れてしまう。


・ナポレオンは演説があまり得意でなく兵隊を前にしての指揮は出来たが、議会での発言などは得意ではなかった。


・ナポレオンとコンコルダート。
 ナポレオンがやったことの中で一般人というか非キリスト教徒にはあまり意味のわからない行動。ナポレオン自信は宗教家でもなんでもなかったが、宗教は治安維持に役立つというリアリストな感覚で、バチカンと結んだ。革命フランスは無宗教、をうたっていた。
 ワタシも若い頃は、ドストエフスキー的な宗教論、ヴォルテールの理神論的な考えはなんのこっちゃーと思ってましたが、むしろ毛嫌いしてたんですけど。でもでも、年をとると、結局のとこ、低能な群衆を制御するのには宗教はやっぱ必要なんだって思い直しました。ナポレオンのリアリストな感覚、が一番現れている気がします。
 西洋の歴史とか思想を読んでくとルネサンス以来第二次大戦あたりまで、ずーーーっとキリスト今日のここが悪い、っていうところから哲学が始まるのですよね、基本はキリスト教批判。考えるってことはカミサマの否定から始まるってことです。

 また教育制度、レジオン・ドヌール勲章の創設、など近代化と反動を織り交ぜて政治をやった。やっぱりただの独裁者ではなく、建国の祖でもある・・。
「レジオン・ドヌール勲章などはおもちゃであるが、おもちゃで人心を掴むことが出来るのだ」
 民衆の儀式、宗教、ファンタジー、豪華な見世物、そういうのを利用する柔軟性がある・・。ヒトラーもまたその才能に恵まれていた。

・有名なナポレオンの民法典。内容はつまるところ反動で、革命の行き過ぎた平等と自由を抑えるもの。離婚を厳格にしたり、家父長制の再建、など・・・。頭の中のキレイゴトだけで作られた平等と自由のおかげで滅茶苦茶になってしまった現実を立て直すもの。実際現代でも家族制度に変わる新制度は生まれていないのである・・ナポレオンは秩序を望むストイックな性格・・若者からするとちょっとキビシすぎるほど・・


・ナポレオンの終身執政就任は国民投票で圧倒的多数の賛成で決まった。民主的支持による独裁なのである。しかも33才くらいで・・・。33ほどで一国の最高権力者・・・皇帝になったのは35才。35才!!

 *独裁は必ず長続きしない。というのは独裁がいい悪いではなくて、ものすごい天才がいたとしても、同じような天才がたまたま同時代に、同じ共同体に、適齢期で、いることなどまず可能性は0に近い、そしていたとしても天才同士で折り合いがつかず友好関係であることはない。血縁関係のものを選ぶのはさらにサンプル数が少ない、奇跡を願ってるだけである。天才の子が天才である可能性は0に近い。カエサル→アウグストゥスのように後継が上手くいくのは本当に稀。
 それと人間というのは時間と供に変わるということ、同じ人間だからといって明日も同じではない、年によっても変わるし突然変わることもある。同じカラダというだけで同じではない。1つの一生を通してこの人はこういう人間だ、っていうのはワタシは間違ってると思います、この時のこのひとはこういう性格だったってだけで、いつの??ってことで性格も人格も変わる。

 ただナポレオンは落ち目はすぐにわかって、まずデブになったところでおや?って思うとこですね、そして愛人も作る、完全にダメになってる証拠、上官がデブって来たら鞍替えを考えろってことです。
 リーダーにはいろいろタイプがあります。ネアカでものすごいバイタリティを持ってて、前向きなエネルギーを発散して周囲にチカラを与えるタイプ、カエサルとか。一緒にいてて楽しい。ただしこのタイプは、オンナ問題とかスキャンダルとかしょうもないことで破滅しがちです。そして潔癖症的な若者とかに蛇蝎のごとく嫌われて暗殺されたりする。
 ナポレオンはそうだと思うのですが、ストイックで、頭もキレて、超人的な能力を持ってる、天才タイプですね。ヒトラーもそう、とにかく高い能力を持ってる人間なんです。自制心や忍耐力、判断力も優れてるわけです。ただ自分の能力に頼ってるために肉体的衰えですぐにぐらつくし、最大の欠点は後継者に恵まれないってことです。諸葛孔明もそう。クソ!周りにはバカばっかりだ!!ってことになる。
 だからといって一国の皇帝で、経済も法律も教育もやり、しかも軍の指揮官として前線にも立つ、こんなムチャクチャが通るわけないです、人口100万の国とかならまだしも。
 ただ、普通に考えればそうだけれども、国家の危機に、前線に立つってのはやっぱ格好良いです。さようなら、前線に行く、もう帰らないだろう。ってのは議会で何にもしないで待ってるよりは断然良いですね。


 それとストイックってのも、プラスマイナスがありますよね。だいたいストイックなヒトってのは他人にもそれを望むわけです、オレが一日一食12時間労働で我慢してるのだから国民だって出来るはずだ!っていうふうに。実際にはそんなのは一部の優れた人間だけで大多数の凡人には到底ムリな要求というわけです。

「善良で人の良いバカよりも、狡猾で知恵のある悪のほうがマシだ、悪なら条件によっては味方にもできる、バカは際限無くバカだ。すぐに裏切る味方よりも、はっきりした敵のほうがマシだ」


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 カエサル、クロムウェル、ナポレオン、ヒトラー、と独裁者としてタテマエ民主主義の今ではナポレオンは悪者の一人です。けどスターリン、ポルポト、毛沢東、とは一緒にはされませんね。後者はタブーとなっている節がある。
 スターリン、毛沢東は微妙なとこで、一応戦争勝利者ですから、英雄でもあり、未だに、英雄と崇めるヒトもいるわけで、ナポレオン、ヒトラーは最終的には敗北したことによりて、負けたから悪にされたって感じもします。カエサルは暗殺、クロムウェルはなんとインフルエンザで死亡。
 つまるところは、最終的に敗北した英雄は、独裁者だの、専制君主だ、クズだ!なんて好き勝手に叩くことが出来ていいのですけど、勝利者のまま死んだ英雄は、タチが悪いってことです。


 フランス革命ってのは、すぐに革命が終わったみたいな感じを歴史の教科書だと受けますけど、実際はずーーーーっと、混乱しまくっていて、第三共和政だのなんだのごちゃごちゃしててもぉわけわかんないですね。最終的には、普仏戦争、第一、第二世界大戦でドイツにコテンパンにやられて、三流国に転落したわけです。革命はやっぱし失敗だったのでしょうね。革命ってやつは成功しないんだ。ってのが19、20世紀の教訓、何をやっても無駄だ、ってのが21世紀の雰囲気でしょうか。
 ただ何か事件が起こるのはいつもフランスは最初で、新しい仕組みが生まれるのはいつもイギリスだってことです。フランスは大規模にテロの攻撃にあってますが、パリという街は、いつだってテロの標的でした。流血の都パリ。そしてEUからいち早く離脱したのはイギリス、BREXIT、イギリス離脱、未だにこの構図は変わりません。


* 行動する英雄。ナポレオンが独裁者かとかそういうのは実際にはどうでもいいことで、彼が人生と真剣に取り組んだってのは誰にも明らか。真夏のエジプトから真冬のロシアまで、彼は自分の足で歩いてる。戦場では何度も死線を突破している。口先だけで何もしないヒトよりも、行動する、行動したってだけでワタシは英雄だと思う。自分の足で歩いた、結果など問題じゃない。コトバだけの人間よりも、はるかに!生きる、ことをやってる。


 ・ただ伝記のバイアスというものはやはりあって。ある人物の伝記を書こうという人間はやっぱりその人間が好きだから書くのであってどうしても公平に、事実だけを、といいつつ、美化正当化をするもの。キライな人物の伝記を書いて、評判をこきおろしてやろう、みたいな中傷みたいな本は最近は存在しないし、そんな本誰も買わないから。



・戦記物でありがちなんですけど、こういう判断が失策だった、ここでこうしていれば相手の部隊を撃滅できた、なんでここで時間を浪費したのか、とか軍隊の士気は低かった、兵士はつかれていた。みたいなことって、ほんと全部ただの結果論ですよね、そんなの戦場にいるんだからわかりっこないだろ!!って感じ。士気が低かった、みたいなのも、そこにいない人間にはわかりっこない。ただあの時は士気が低かったって言ってるヤツの士気が低かっただけかもしれないし、他人のココロの中なんて見通せないんだから。
 ビデオゲームでもやるみたいに、俯瞰で戦場が見れて、部隊を確実に動かせるならそりゃ作戦的失敗もあるかもですけど、限られた情報で戦わないといけないんだからあとは直感と出たとこ勝負以外ありえないです。それに、ここが失敗だった!みたいなことを書く奴は、ほんとに前線で戦う勇気があるのか?って思います。もうすぐ死ぬかもしれん!腹も減った!疲れた!周りは死体で一杯だ!!こんな状態で、すべての状況を冷静に判断して、全部ちゃんとやれってのがムリです、オマエがやれって感じ。ワタシは戦わない人間には、戦うヒトのキモチなんか絶対にわかりっこないって思います。ナポレオンが正ししかったのかどうかとか、その評価ってのはやっぱり一緒に戦ったヒトか、相手として戦ったヒトにしかわかりっこないことだと思いますね。