2015年9月2日水曜日

1590 タイタス・アンドロニクス   WS

SHAKES最初の悲劇、そしておそらく最初のWSのローマ史を題材にしたろシリーズの作品なのですが、其の中でもかなり異色の作品と言われております。

 悲劇というよりは復讐劇、REVENGE PLAYという1つのジャンルがあって、SHAKESの時代にはこの演劇はものすごい人気があったようです。それがだんだん17世紀とかになって、社会が文明化されてより残酷になると、文化には規制が入るようになり、だんだんと評価を下げていったものです。社会が戦争の時代、殺人の時代になると、文化には残酷だったりいきすぎたものには規制がかけれられるようになります、社会が平和だと逆に文化は退廃路線というのが、ディケイダンス的なものになります。2001の9/11あたりで、バラエティとかテレビ番組にめちゃくちゃ規制がかけられたっていうのを肌で感じた人もいるのではないでしょうか?一気にあらゆるものがダメになった、それは社会がクリーンで衛生的なものになったのじゃなくて、現実がグロテスクで残酷になったから、文化のそれは圧殺されたわけです。2015年の今はまた、文化に対する圧力が高まっていますから現実は緊迫した状態になってる、というわけです。文化はいつもリアル、を映す鏡でして。けど鏡だから真逆、を映すのですね。太宰が言うには絶望の時には生の喜びを書き綴り、平和の時には生活の倦怠を書くものだ、と。






 ともかくこの演劇はすごいR18的なアクションのオンパレードです、猟奇的演劇と言ってもいいです。悲劇、というよりは、エログロ路線なんですね。WSはWSエンドというように、まぁいっつも登場人物が殆ど全滅して終わるってのを得意としてるわけなのですが、タイタンは特にそれがすごいです。特にラヴィニアが両手を切断され、舌も切り取られて輪姦されるというショッキングなシーンw 演劇史に残るショッキングなシーンです。
 
 けどシェイクスの良さも存分に発揮されている作品ですし、この路線から受け継いだアイデアも後々開花します。劇中にも出てくるようにかなりの程度この演劇は、オヴィディウスのメタモルをモチーフにしていてオマージュといってもいいくらいです。
 
 シェイクスピアという人間は善人では無いのです、戦争好きだし、肌がピクピクするようなエログロ話も大好き、女はどんどんセックスして子供をたくさん作るべきというセックス支持者であり、形だけのキリスト教徒。自身はおそらく両刀で家族もありつつ、少年俳優にいたずらを仕掛けるエロ親父で、権力とか地位みたいなのに対する憧れがかなりある俗物でして、霊魂やら呪いみたいなオカルト、妖精やら化け物みたいなファンタジーも好き、何よりも人間と人生を愛する人です。



 アーロンというアンタゴニスト、しかも黒人を軸に劇は展開していくのですがといって黒人を蔑視しているといよりは、アーロンは惚れ惚れするような悪党で冷酷非情、頭の廻転も早く野蛮なゴート人を手足のように使う策士として描かれてます。ハリウッド映画では、悪役を黒人にするのはアウトとなっているし、味方を全員白人で固めるのもアウトとなっています。浅ーい人種差別対策なのですね。
 アーロンはほんと特殊な悪役でもあります、復讐劇、というように、みんな多かれ少なかれ復讐の理由、を持って殺人に手を染めるわけですが、アーロンには何も無いのです。アーロンは悪事の限りを尽くし善など1つもしたくない、死ぬのよりももっと悪事を働けないのを恐れる、と言う、しかしながら全世界を敵に回しても自分の息子だけは助けたいと懇願したりする。それは自分の息子は自分の若さと命の分身だから・・・
 アーロンはものすごい虚無的な悪です、ただその存在への情熱っていうのか、ものすごいエネルギーを放つキャラクターであるのは間違い無い。一体何をモチーフにアーロンは生まれてきたのでしょうね?是非シェイクスに聞きたいです、アーロンという人物はどういう意図があって生まれたのかって。



ネタバレですが、最後にタイタスが娘のラヴィニアを殺すのはハッとしますね、今までにこういうストーリーに出会ったことが無い気がする、これはWSの発明といっていいでしょう、まだ誰も描いたことのないシーンだって思います。当然そうなるって予想出来るはずなのに、なんでか知らないけどそうなるとは思わなかったです、意表をつかれた。けど全体として見た時に、この演劇はすごくキレイな、残酷な美しさに満ちてるという気もする。



 ともかくものすごい現代的ともいえるし、もしかしたらSHAKESは劇に客をたくさん呼びたいが為にちょっと客の調子に合わせ書きをしてみたのかもしれないし、当時の流行りにのっかっただけなのかもしれません、それとももっと全然違った意図があったのかもしれないし、SHAKES自身がこの作品をどう思っていたのかもわかりません、けど物書きとして思うのは、この演劇には若い作家特有のエネルギーに満ちてるってことですね、デビューから常人離れした技術を持ってて、すでに大家みたいなスタイルを持ってたシェイクスですけど、こういうなんだろう20代の作家特有の、溢れるようなエネルギー感を出したってのはこの作品だけだと思います。なんか劇が残酷だとか悲しいとかいうよりも、熱量を感じるのですよね。イキモノのエネルギーを感じる。
 Iはこれは相当好きな作品ですね。


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2-1  Aaron
 欲しいものを手に入れるには策略と戦術が必要だ、それに覚悟もいる。欲しくても出来ないなら出来るものから手を付けて強引に手に入れるしかない。


4-2

 アーロン
 黒は他のどんな色よりも上等なのだ、他の色に染まるのはごめんこうむる
(アーロンはムーア人で黒人

Aaron
 全世界が目の前に差し出されてもオレは息子を選ぶ、全世界を敵に回しても息子を守る・・・

two may keep councel, when the third is away
 2人なら秘密はもれない、3人めがいなくなれば・・
 (三人目を殺すときのセリフ)

ブタだって串に刺されるときはブーブーわめく。
(誰かを殺すときに騒がれた場合のセリフ、ひどいw)