まず初めになんでCaesar を英語ではシーザー、と発音するのかってのが気になりませんか?オリジナルのラテン語ではC、はカッ、と読むので、カエサルってのがオリジナルのラテン語での発音でして、ちなみにカエサルというのは髪の長い男という意味らしいです。実際にはカエサルは中年になるころには禿げていたという話です。
さて英語というのは比較的新しい言語でして、それはラテン語とフランス語、ゲルマン語、そしていわゆるイングランド語、がまざったのもので、殆どの英語の単語というのは、ラテン語が変化したフランス語から輸入されたものなんですね、ローマ、パリ、ロンドン、という風にコトバが旅をしていったわけです。フランス語ではCはSの発音だったらしく、サエザー、からシーザーっていう風になったらしいという話、あくまでそう言われてるってだけで真相は謎です、コトバってのはそういうもので、なんでそういうの?っていうのに根本的な理由とかは無かったりします。
ちなみにカエサル、がゲルマン語になって、カイザー、皇帝、を意味することばになり、ロシア語でもツァー、ツァーリ、として皇帝、の意味となっています。元をたどれば、カエサルという人名、が皇帝という単語になってるんですね、もちろんドイツ皇帝は神聖ローマ帝国の皇帝、ロシアも東ローマ帝国の皇帝というわけで、カエサルの後継者というのを名乗っていたわけです。
さて本題に入りますと
「ブルータスおまえもか!
Et tu, Brute?
Then fall, Caesar!
で有名過ぎるほど有名なアレです。しかし実際のこの劇を見たことが有るヒトはめちゃくちゃ少ないし、プロットを知ってるヒトも非常に少ない。
ブルータスという人物は高潔で潔白というので有名な人物であって、誰からも信用されて、好かれていて、カエサルもブルータスを可愛がっていました。
しかしカエサルが(歴史を説明するのは面倒なんですが、ともかくカエサルは強力になりすぎていたので、元老院たち年寄り達には面白くなくてカエサルは何も悪いことをしてないのに反逆者にされてしまいました。カエサルはルビコン川軍隊を伴って渡り、口先だけの元老院にガツンと一発くらわします)。元老院とか議会を無視して武力で権力を奪うというのは、確かにこれは独裁の始まりです。やってることはその通り、カエサルの行動は反逆者のそれなんですが、カエサルという人物は天才であり、カリスマ中のカリスマ、給料なんていらない、カエサルのために死にたい、みたいなごりごりの親衛隊もいるくらい男に好かれる男で、作戦を考えれば天才のひらめき、演説をさせれば軍隊のモチベーションはうなぎのぼり、それだけに収まらず、文章を書けば名文家であり、戦争だけでなく統治力にも秀でていてガリア、そしてブリテン島まで平定します。
ともかくも万能のスーパー超人でして、こんな天才ほかにあんまりいません、人類最高の指揮官は?とくればカエサルという感じ。
こんな天才を敵に回すなんてどう考えても元老院は無能な他人の成功を妬む無能なジジィの集団であるのは間違いありません。
けど!!だからってカエサルの独裁が許されるということではない。
一般的に、カエサルを暗殺したブルータスは悪者、という扱いですけど、実はそうじゃないんです。カエサルがいかに天才であり、最高のカリスマを持っていたとしても、カエサルが独裁者としてローマのためになるかどうかはわかりません。実際に1人の超天才が国を率いてそれが上手くいったという試しは歴史上一度も無いんです。不思議とそれは失敗するんですね。なによりカエサルだって年をとる、カエサルが年をとったら後継者はどうする?まさかカエサル一族が皇帝の血筋ということになるのか?それも危険です、天才の息子はバカというのもこれは歴史の事実。世襲相続で名君が二代続く試しは無い。
カエサルも年を取ったら耄碌するかもしれない、若い頃はあんなに素晴らしかったのに年を取ったら目も当てられないってのはこれもよくある話、秀吉とかがそうですね。
というわけでブルータスは、カエサルの独裁を防ぐために、あんなに自分を世話してくれたカエサルの暗殺を企てる、すべてはローマのために。
ブルータスはクズではなくてローマのミライを真剣に考える愛国者という立場なんですね。この劇はブルータスが主役です。実際の!ブルータスがそういう人物だったかどうかはわかりませんが、少なくともこの演劇でのキャラ付けではブルータスは本当に高潔で愛国的な人物。
カエサルもそれを知っているから「ブルータスおまえもか!!(あの高潔で私利私欲もないブルータスですら、カエサルの独裁を防ごうとするならば、それは仕方ない!)という意味が込められているんですね。
オマエまで裏切るのかこの恩知らずのクソ野郎!!という意味では無いんです。 カエサルもアホではないわけですぐに自分の運命を理解しブルータスの思い、も理解できたのですね。
シェイクスピアもかなり成熟してきて、こういった、一筋縄ではいかない、勧善懲悪ではない、時代劇的なお決まりの展開、に陥らない、複雑な心理描写の作品へと変貌していきます。
この作品はシェイクスピアのエリザベス女王に対する痛烈な意見が秘められているとも言われています、つまることエリザベス女王の後継問題はどうするのか?ブルータスのような憂国の士はいるのか?ということです。実際にはエリザベス亡き後のイギリスには大波乱の革命が待ち受けておるわけです。
ちなみに歴史の真実としてはカエサルが暗殺されたことにより、その養子候補であったアウグストゥスが結果的には初代ローマ皇帝となり、ローマの最盛期を作ることになります。もはや年をとったカエサルではなくて、まだ青年のようなアウグストゥス、血縁相続ではなくて、実力主義の相続がなされたことにより(アウグストゥスはその能力の高さで養子にとられたような男ですので無能なわけはありません)、元老院も、裏切り者も一掃出来た上に若返りまで出来て、ブルータス自身は反逆者として死んだけども、ローマの為になったといえます。
アウグストゥスという人物はカエサルのような歩くカリスマというタイプではなくて、クールでイケメンそして冷徹、頭脳派のキレ者という、女の子に激モテするような、男には、ちぇっなんだよあいつって思われるようなキャラの男です。アウグストゥスはこの演劇の中のような激昂するようなタイプではなくて戦場ではあまり活躍しないで、割と病弱でマッチョとは一線を隠す人間だったらしく、戦争とか肉体労働はアグリッパという右腕にまかせてパクス・ロマーナを確立しました。そこもなんかかっこいいですねw アウグストゥスがイケメンだったというのはこれはかなり確実だった様子、金貨とか銅像でも、修正があまりいらない顔だったらしい。ワタシもアウグストゥスというヒトの顔っていうのはまさにこれぞローマ人、という模型みたいな顔だと思います。髭がない、というのがこのヒトの若さを表す特徴の1つ、現代っぽくてスッキリした感じを受けるのもそれですね。
でもブルータスの行動、みたいに本当にその後の歴史をガラりと変えてしまうことってのが本当にあるんだって話しですよね。カエサルそのまま皇帝になってたら、本当に全然、その後の歴史が変わってしまいますもの。 少なくともヨーロッパの地図は全然違うものになります