この作品には伝説があって、エリザベス女王が、シェイクスピアに何か面白い劇が見たいわ、みたいなことを言ったのでシェイクスピアがほぼ即興的に書き上げた劇ということです。
だいたいこういう伝説は嘘なんですが、なにかそれに近いことがあったことはあったんでしょう。この時期のシェイクスピアにしてはなんか構成が練れてないというか、あっさりと淡白でして、オチのつけかたも昔使った方法の焼き直し、真夏の夜の夢からも自己パロディみたいな感じで使っています。即興的にバーーっと書き上げたというのはたぶん本当のことだと思います。お気に入りのキャラ、フォルスタッフのスピンオフ的な作品。
シェイクスピアはある種のフェミニストでして、その劇は女性が活躍することが非常に多いです。でもそれは現代のフェミニズムみたいに、女が、男性と同じ、男性のように活躍するのではなくて、女性が、女としての強みを活かして活躍するという感じ。貧しい人間には悪党にも、それぞれに果たすべき役割があるっていうシェイクスピア的な全肯定主義みたいなのがあるんですけど。それぞれが一番生きる形の役割を与えるっていうのは、ワタシはこっちがやっぱし正しいと思いますね。
まぁ女性が活躍するというのはエリザベス女王の時代の作家ってのも大きいのでしょうけどね。イギリスってのは超珍しい王国でして(イギリスってのは王国なんですよね、王国って!ファンタジーみたいな響きですけど)、王国であるっていうことは、王国でなくなるきっかけが無かったということ、つまりイギリスはほぼ世界で唯一一度も戦争で完敗したことの無い国です、だから王国、のままで残っているというわけ。アメリカは王国?があったのかどうかもわかりません、植民地にされてしまったので。
劇の内容としては、フォルスタッフの馬鹿話とその子分たちのボケ、に対して貞淑な人妻が知恵を発揮してフォルスタッフをいぢり倒し、その一方でその馬鹿騒ぎを利用して、ヒロインであるアンが望まれない結婚から駆け落ちする計画を練る、という奴です。シェイクスピアお得意の、複数のプロットが絡み合ってオチをつけるという、もう眠っていても使える、十八番の構成です。