2024年1月21日日曜日

1976 競馬への望郷 寺山修司

 私の祖母は、若くして発狂し、桜の咲く日に、一人で死んだ。


 たったこれだけの文章で、やっぱ寺山修司って文章が上手だなぁと思いましたね。桜の咲く日に というのが一個入るだけで、ただの悲しいお話が、色鮮やかなポエジーになる。

 祖母が若くして、発狂して死んだ。ものすごいドラマチックな話ですなぁ。祖母が若くして死ぬだけでドラマティックなのに


 ハイセイコーの寄せる詩も載ってますが、さすがとしかいいようがない。

今回は、お気に入りの馬と騎手を取り上げて述べるっていう感じです。過去の本との重複も多数。カブトシロー、ワカクモ、クモワカ、キーストン・・・まぁ伝説の馬達ですな。それとは逆に未勝利からまったく勝てない馬たちの物語・・・またそれに賭ける人々もすげー人々ばっかりです。祖国を追われた韓国人、隻眼のヤクザ屋さんや、結核持ちの風俗嬢。ドラマすぎる。


 4白、という話もおもろいですね。馬の足が白くなってる馬がいますが、その数で運命が決まり、全部白はだめ、3,2はまぁまぁ、一本だけ白の馬は絶対に手放すなという話。

 エクリップスがまさにその一本白であり、イクイノックスも一本白です。だからまさにその通り。一本だけソックスを履いた馬がいたら、大勝負してみるべきですね。


 個人的に印象に残ったのは、やっぱり福永洋一、ですね。つまり福永祐一の親父。


福永洋一と岡部幸雄、二人の騎手は同期なのです、花の15期と呼ばれています。岡部も新人ながらものすごい活躍していましたが、福永はまさしく「天才」で、すぐにリーディングを独占するようになった。岡部でも全然敵わなかったってことですね。

 洋一は、はやくして両親を失って兄弟だけで育つという、まさに少年漫画の主人公。この本の中ではそんな貧しい生まれから、天才としてリーディングまで駆け上がっていく、完璧なヒーローというところで物語は終わってますが、まさにその挫折を知らないヒーローは、突然の悲劇に見舞われ、落馬で予後不良、生死を彷徨い、もちろん騎手引退ということになる・・・

 物語はそこで終わらないで、息子、みなさんご存知の福永祐一が騎手になって、父の無念を晴らすべく騎手になる、天才洋一の息子、確かに美談だけれども、天才の子が天才なんてのはこれはほとんど無い話・・・・、が、実際息子も天才だったのですわ。岡部、武、福永さえ買っときゃいい時代がかなりありました。オールド競馬ファン的には、福永、という名前を見ただけでドキリ、とするのです。

 騎手を引退して、調教師になり、さて福永厩舎はいかに・・・続く。


ってわけ、馬、だけでなく、騎手もドラマにあふれているのです。


競馬ってのは、超長編ドラマだとワタシは思う。登場人物が死ぬほど出てきて、代替わりしてく、過去の因縁や、悲劇、あるいは栄光、それが絡みあんでいるドラマなのです。わかりやすくいうと100年近く続いているワンピースみたいなものなのです。


 ちなみに武豊の親父の武邦彦はひょろながくて、クールで、魔術師みたいな人間とあります、顔は息子とほぼ同じですw これも天才の子が天才だった珍しいケース。だいたい天才の子は甘やかされて放蕩息子になり、孫に才能は隔世遺伝するものなのですけどね。