2024年1月25日木曜日

-380? パイドン (魂について) プラトン

 話の舞台がソクラテスが毒杯を飲んで死ぬその日の物語なので、弁明、のすぐ後に書かれたように見えますが、実際には、プラトンがシチリアに行って、ピュタゴラス派にどっぷり影響を受けた中期以降の作品です。


 プラトンの本は、すべてソクラテスがしゃべる、対話型の構造を持っているのですが、これは本当にイカれた所業と言わざるを得ません。どれだけ尊敬していた師匠であろうと、自分のすべての作品の主人公をその人にするってのは完全におかしい、です。

 むしろ、自分の考えを勝手に自分の師匠が言っていたように書くってのは、やってはいけないこと、だと思って控えるのが道理ってものです。むしろソクラテスが一番糾弾しそうなやり口といえます。

 このプラトンの狂気じみた振る舞いの裏には、絶対になにかがある、と見るのが普通です。だから、ソクラテスなんてほんとはいなかったのではないか?プラトン、という人物も本当はいないのではないか?みたいな憶測が生まれるわけです。


 まぁそのプラトンの異常さはさておいて、この本の主題は「なぜ自殺してはいけないか?」という、カミュが言うには、哲学においてたった一つの問題を取り上げたものです。哲学の問題はつまりこれに尽きるというわけ。なぜ自殺せずに生きているのか?それだけが本当の問題だろうと言うわけです。


 基本的には、自殺してはいけない理由は、神が人間を作ったのだから勝手に死んではいけないというシンプルな答えなのですが、そこにプラトンは イデア論 という彼がピュタゴラス派から学んだ概念を登場させるのです・・・


 他にもなんで魂は不滅だと考えられるのか、想起論(アナムネシス)、哲学者の魂は死後の世界で幸福になれるが、肉欲に縛られたものの魂は不幸になる、みたいな哲学宗教みたいなことになっていく、最後には天国と地獄の描写があります。明らかにこのへんはプラトンが、オリエントから影響を受けてる部分ですね。


 ソクラテスは聖人で、知のために死んだけれど、プラトンはそうではありませんでした。その他多くの学者と同じく言行不一致、死を避けるべきではないと言いつつ、迫害を恐れて逃亡したり、政治に関与してみたり。ようするに口先だけの人間でした。結局師匠を超えられなかった勇気の無い男、がプラトン。いろんな屈折、があるのですね。

 

 けどもプラトンが根性なしだったおかげでこうして本は残ったわけです。