絵コンテ見本。一ページに4枚くらいか?全部をイラストクオリティで塗るのは無理なので、これが基本・・・スタジオジブリ絵コンテシリーズを参考に・・・
13 condition humaine
アキ「三人になると随分静かだね・・夏の通りすぎる音が聞こえるよ」
俊「あえっ?」
実際にはそんな音は聞こえず金属の摩擦音がギンギンと鳴っているだけだった。
アキ「なんでもねぇです」
俊「はぁっ?もっと大きな声でしゃべってよ」
アキ(死ねぇっ!! (舌を出す)
海里も海里で作業中はHMHF(ヘッドマウントディスプレイヘッドフォン)をつけっぱなしなので全然話相手になってくれない。海里のHMはレイ・トレース、x-ray, thermography, ultraviolet-ray, inflaredのフル装備に、カスタムでradiation censor,空力センサーもついている、工業用の高級品。確かに彼女はサイボーグ憧れがある・・、私は目が悪いのに裸眼、私はあのHMのすべてがクリアに見えて、パンフォーカスに合ってる映像が大嫌いだ、その日の体調によって焦点距離がずれて、ぼやけまくってる(しかもガチャ目だから脳が勝手に処理した映像)が一番性に合ってる、視力回復手術を受ける気もさらさらない・・・
別に寂しいから話し相手を欲しがってるわけではないのです、この造形っていう仕事は、爆発的に集中力を使いきって長時間労働が出来る代物じゃないってのがすぐにわかった。ミケランジェロが彫刻こそが最高の芸術だと言っていたのがわかった、彫刻ほど体力的にはしんどくないけどこんなに削られる作業とは思わなかった。だから休憩を長くとるんだけど集中力を回復させるのは無駄話が一番なのに・・・ミケランジェロに勝手に作品使ったので復讐されてるのかも・・寝袋を積み上げているところにちょっと腰をおろしたら、まさか!!5時間も昼寝をしてしまった)
俊「そろそろ起きないと一日終わってしまうよ」
アキ「うわっ!!今何時?」
俊「10時半」
アキ「うそだろ・・・どうもおかしいな・・私はそんな・・ノーガードみたいな生き方をしてきた事はないのに・・」
俊「なんだそれ」
アキ「・・やっぱ食生活かな?君のベジタリアンレシピで健康になりすぎて、快眠しちゃってる気がする・・、もしか!私を太らせてなにかやらしいことをしようとしてるね」
俊「なんで太らせるのかがさっぱりわからない」
アキ「豚を太らせるのと同じ原理だよ」
俊「・・?寝ぼけてる」
アキ「うん・・、車輪が終わってんじゃん、シャフトも・・」
俊「後はあの・・なんだっけ、ど忘れした・・あれ?あれをなんて言うんだっけ、ほらチェーンが絡んでるぎざぎざしたやつ」
アキ「働き過ぎじゃない?」
俊「そうかも・・、でなんだっけ?」
アキ「・・・ギア?」
俊「違うよ、ギアはそれが束になったやつだろ、っていうかパーツじゃなくて機能名じゃないの?」
アキ「えっ?寝ぼけてるから脳みそ働かないよ、コーヒーくれ・・・それにチェーンが外れるのがいやだから、なんか違う方式にしたでしょ?戦車みたいなやつ・・・ラグ・・・カム・ラグ・・・コグ!」
俊「スプロケット!」
アキ「ところでドクターは?」
俊「散歩」
アキ「散歩?ベートーヴェンの真似?・・まぁいいや遅れを取り戻さないと」
アキ(俊は私と入れ替わりですぐに眠ってしまった、ここは製糸工場だったか?もうすぐ肺病が流行るきざしか・・夜のほうが彫刻は向いているとわかった、昼に作るものは昼の作品で、夜に作るものは夜の作品になってしまうという、昔は一番明るい光は昼間の太陽だったから、画家は昼に絵を描いた、だから昔の絵には昼が多く、夜が少ない。電灯が発明されてから芸術家は静かな夜に作品を作るようになった、昼間に作品なんか作ってたら、ただの趣味人か、カルチャースクールの似非芸術家気取りか、商業主義の奴隷だと思われるだろう。それにしても、あらゆる芸術領域の中でこれだけには手を出さないと思ってた彫刻を人生のピーク時にやるとは思わなかった。彫刻はあんまりにも・・・、ねぇ?一体どんな気持ちでミケランジェロはかわいらしい包茎のおちんちんを彫っていたのか、まったくもって全然理解出来ない。いくらゲイだからってそれは・・やる気がでない。しかし重力を無視した柔らかい空とぶ絹布を漂わせるのも、どこからともなく葉っぱが現れるのも違う。彫刻は時代遅れの芸術の中でも一番時代遅れの芸術だ。誰かが言っていた、一番早く人から忘れられる方法は、自分の銅像を街に置くことだと・・・ドクターが帰宅)
海里「遅くまでご苦労なことで」
アキ「殺人的に昼寝したからね」
海里「たまには息抜きが必要だよ、パスカルじゃないけど。私もとうとう肩こりが限界だから明日は休むね、ちょっと休むってのを忘れてたよね」
アキ「ほぉ・・・ほぉほぉ」
海里「何?」
アキ(メンスで学校休む派かね)
アキ「別に、じゃあたまにはインタヴューでもやろうか」
海里「何の」
アキ「・・人間の尊厳について。もし、水爆が小型化して、技術的にもそれが簡単につくれるようになり、あらゆる個人がそれを持つことが出来るようになれば、人類はひとりひとりの人間を尊重せざるを得なくなるでしょう。それがどんな人間であれ。一つの巨大な国家に対するように、一人の人間にたいさないといけないね・・それはあらゆる個人が尊重されるような社会を希望しているはずの民主主義者や実存主義社会主義者には好ましいことだよね、でも実際はそんな世界は最悪だよね。どんなキチガイやくだらない人間やらポンコツやら、障害者やら、老人、痴呆、極右、オカルティスト、宗教家、不能、セックスレスのババァ、そんな人間の意見など聞きたくもなければ受け入れたくもない、どんなガチガチのヒューマニストでもそうだと思うよ、本当は・・・ある程度の人間よりも自分たちが優れている、ある程度の人間は犠牲にならないといけないって、ヒューマニスト自身が、切実に思い知らされてるから。おれたちの国は水爆を持ってはいいけど、あいつらはダメだって、今でも第二次大戦の戦勝国は信じているもん、じゃああの人達は一体何を言ってるでしょう?結局人間ってのは主義なんて持っちゃいないのだろうね、ナチスにしたって共産主義にしたって、民主主義にしたって、あらゆる人間が尊重される社会なんてクソ以下だと思ってるでしょう、でなかったら誰もが水爆を持つ世界は、ここにすでにあるべきだもんね。
人間が人間らしく、精一杯生きる、実存主義的な力強い人間が本当に社会にたくさん現れたら結局社会は終わりない殺し合いをするしかないでしょう、実存主義的人間は、サルトルが見抜いた通り、永久に戦争をするだけの、永久革命マシーンであって、彼らは美しく、感動的であるけれでも、それだけに最高にくだらないものなのかもしれない、フランスのレジスタンスに参加していた知識人たちは、ヒトラーが実存主義の超人だと認めないわけにはいかなかったと思うの、それででも嬉しいと思ったでしょう、だってヒトラーを倒すのはこの上なく感動的な勝利、感動的な戦いに思えただろうから、死に場所を与えてくれるって言い方であれば、それがベストだよね。ヒトラーのやった事の功罪なんて、もしくは価値判断なんてすべてくだらないものだけど、ヒトラーがほかの大多数の人々より、濃く濃厚で、人生を生きる、という命題にかんしては満点近い点を出したのは事実だと言えると思う、毎日真面目に水道管でも掃除して社会に貢献した、驚くべき勤勉な労働者よりもヒトラーでありたいと普通の人間は願うでしょ、ヒトラーに対する憎しみの大部分は自分がヒトラーでない事・・・」
海里「そして私がその誰にでも持てる水爆の開発者で、そして人生を生きようと願う実存主義的人間だっていう事を言いたいんでしょ?まさしくそのとおりじゃない?」
アキ「あなたがやらなかったら誰かがやるだけだもん、アインシュタインが発見しなかったら別の誰かがアインシュタインの代わりをやったでしょう、個人ではないにしろ、アインシュタインほど速く、そして鮮やかにやれなかったかもしれないけれど、いずれはそうなる、小さな水爆だってそう、それに類する非常に簡単な最終兵器が、個人の尊厳を極限まで高めてしまう、世界は教科書に願ったような良い世界になってしまう、人は暴力によって他人をねじ伏せて、悪い世界にしておくことでなんとか命脈を保ってきたのに、良い世界はほとんど一瞬の間に、砂塵に帰ってしまう、人間には良すぎた世界だった、っていう墓標でも立ててさ。実存主義はもう終わったんだよ、不条理な人間も含めて、人間は現代を超えることは出来ない、ポストモダンなんてものは存在しない、それは人間のいない砂漠なんだ、現代は文字通り、人間の限界なんだよ、現代の先なんて無い、ニーチェみたいに人間失格になっておまるの中身をあさる・・ブラックホール・・」
海里「・・・?それで・・?」
アキ「・・だからあなたは私に現代の先を見せて欲しいんだ、実存主義の先を。人間のいない砂漠には、風が吹いているんでしょ?私もその風を感じてみたい・・・」
海里「ふぅ~~~、えらく文学的なプレッシャーのかけかたをするね・・私はそれほど人文学系のことは知らないんだよ、ほんとに。実存主義ってコトバも意味が多すぎてよくわかってないし」
アキ「知ってる、いいのいいの、だって海里はアクターなんだもん、アクターはアクションすればいいだけで、自分のアクションがどういう意味なのかなんてわかってる必要はないんだ、作り手が勝手に神話をこしらえるだけで。つまり私を火星に連れてってねって事」
海里「・・なるほどインタヴューってそういうことか」
アキ「そう、私のインタヴュー・・・
私は風が好きなんだ、風を感じるってのが世界を感じるのに一番なんだよ、だって風は目に見えないもの、多くの人は目が見えなくなったら生きていても仕方ないって思うでしょ、すごい音楽家でもない限り、でも闇の中で風が吹いていくのに気づくはずなんだ・・うらやましすぎるなぁ、まだ誰も感じたことのない風を独り占めにできるなんて・・・赤き風を・・」