2012年3月21日水曜日

L'Ettranger  文字コンテ ep11

                                                       11   rain

 アキ(起きた瞬間の刺さるような憂鬱感、そして異常にすっきりした頭。これは寝坊だ、モバイル(腕携帯)を見ると12時少し前だった、海里に深夜に起こされたとはいえ13時間ほど寝てしまった)
とも「起きましたか?意外ですね、アキってもっとしっかりしてると思ってたのに、少女のように眠ってましたね」
アキ(ともにニヤニヤと皮肉を言われて、たまらない気持ちになる。いつからこの子はこんなにシビアに私の弱点を攻撃するようになったのだ)
俊「いい写真も撮れたしね」
アキ「あぁっ!返してっ」
俊「へいパース」
とも「へいへい」
アキ「コロシテヤルーー!!」
アキ(私達が馬鹿騒ぎしてる間も海里はいつ作ったのかはしごを直して、それにエレベーターみたいなものを取り付けて橘花のパーツをどんどん一階に運び上げていた。橘花は中身はほとんど空っぽで計器類は使えそうなものがありそうだと彼女は語っておる、ほかにも地下には使えそうな鉄くずやら何やらがたくさんあってそれも全部一階にうず高く積まれていた)
とも「はぁはぁ・・ふぅ、そろそろ無言の圧力をかけてくる人がいるんで仕事に戻ります、あっ、湯沸かし器を使ってシャワー室を作りましたから、朝シャンしてきたらどうですか?」
アキ「はぁはぁ・・そうする」
俊「水流弱いよ」
アキ「のぞいたら一万円だからね」
俊「いつか5000円でやらせてくれるって言ってたのに、値上がりしてる」
アキ「あなたは女心ってのがさっぱりわかってない」
俊「女はバカな男が好きなんだよ、男がバカな女が好きなように」
アキ「(正論だ)・・だとしたら頭がいい人間は全員イシュマエルだよ」
アキ(気づかなかったけどちょっと肌寒いと思ったら外は雨だった。着替えをまさぐってカバンをさぐる指先がかじかんだ。まだ8月の前半だっていうのに、今年は冷夏なのかもしれない。そうだ、ストーカー2をどこかに設置して置かないと・・移動はしごでそれを正面玄関の上のところにはめ込んだ、そこへトラックがごろごろと近づいてきた)
ドライバー「湊海里さんのお宅でよろしいですか?」
アキ(海里は地下から緊張した顔つき?というか、悪戯娘みたいな顔つきでトラック一台分の荷物をどんどん運び入れた、ドライバーはこんなガキどもが何か自転車屋でも始めるのか?といぶかしそうな顔つきだった。どうにも答えようがないけど、まさか火星に行くための宇宙船を作ってるなんて言っても信じるわけないし、18才の少女を自殺させる映画を撮ってるとも言えないじゃないか。世間ではそれはタブーになっているようだから・・・
 シャワーは確かに水圧がヘニョヘニョだったけれど、夏だから大丈夫だ、冬だったら死ぬかもしれないけど、それに私は毎日お風呂入らないと文明人でいられないってほどの潔癖症でもない、おかげでアレルギーやアトピーとも無縁で生きてきた。・・・そうだアルバイトを無断でやめちまったな・・仕方ないよね・・私があまりお風呂に入りたがらないのはこういうふうにやり忘れた事や、未来の悪いことを整理したがるからだ、そんなものは当たって砕けろ方式でやるより他に仕方ないのに・・食費とかはたぶん海里が出してくれるんだな、ちょっと悪いな・・まぁいいか・・こんなくだらないことに考えが浮かぶのも雨のせいだ。それとともの持ってきたシャンプーがガーリーな甘い匂いのヤツでまったく私の趣味と合わないからだ。シャンプーしながらリンスもできるあの発明をなんで若い娘は理解しないんだ。
 シャワー室(といっても防水カーテンでパーテーションしただけのもの、生足見放題)から出ると海里と俊が慎重にニトロ爆弾でも運ぶように黒い箱を地下へと運んでいた。ふむ・・ニトロ的なものだとしてあのトラックの運ちゃんがそうとうぶん投げてるから意味ないんじゃないの?私は運送業界で少しバイトしたことがあるから知ってるけど、他人の荷物を大切に扱う人間なんてこの世には誰一人としていない。大切な物は自分で運んでいくしかないんだぜ)
とも「アキ、手伝って」
アキ「はい」
とも「いい返事ですね」
アキ「アルバイトのクセ、何すればいいの?」
とも「とにかく、鉄のままじゃ重すぎるから、カーボンナノファイバーと鉄を結合させて、軽くて丈夫な素材をつくるのです」
アキ「鉄?大戦末期の戦闘機は木で出来てると思ってた、記憶違いかもしんない」
とも「まぁそれで鉄は鉄、ネジはネジ、とかで分けて後で溶かしたりしやすいにシて欲しいって事です、はい、海里さんの作った工程表です」
アキ「厚っ、そして紙薄っ、聖書以外では見たことない紙室じゃん、英語だし」
とも「でも初版だから改訂されるんでしょうね、こちら最低限みにつけて欲しい工学とかの教科書です、1セットしかないからみんなで読んでということです、電子テキスト版もあります」
アキ(縦積みにされた本は私の身長より高かった、gravity 6thという巨大な黒いテキストが一番上に置かれていた、オックスフォードの英英辞典と同じ大きさだ。パラパラめくってみると、確かに私の脳みそのグラビティが感じられた)
アキ「ふぅ、ともかく数学と物理では満点取れそうだわ」
とも「ともかくやりましょ、はい手袋です」
とも(私たちは原子周期表に従ってジャンクを分類して行った、Fe 26番、Al 13番、Li 3番 etc、私達の周りでも結構色んな元素が手に入るんだなと感心すると同時に、もう周期表の夢を見そうで恐ろしい、たしかにケミストリーで満点取れそう。俊と海里さんは二人で地下の回線とかをいじくっていた。二人はおさなじみだってことなんだけど、なんだかそれだけではない気がして私はちょっと焦った。でも動揺してると復讐の機械を狙っているアキに悪魔のようにからかわれそうなのでなるべく気にしないようにしていた)
アキ「ときにともちゃん彼氏いるの?」
とも「いっきなり何を言い出すんですか」
アキ「昨日の夜そういう話をしたそうだったから、ピロートークで、それと俊がいるとしずらそうだし」
とも「・・いないです、別れました最近」
アキ「もしかして一回セックスしてすぐに捨てた?」
とも「何で知ってるんですか?」
アキ「私も同じような事したから、ははは」
とも「・・・もっとなにかシアワセになれると思ってました」
アキ「んなわけねぇじゃん」
とも「だってそんなふうな事書いてあるじゃないですかぁ、女としてのシアワセを実感♪とか・・気持ちは良かったけど、それだけでした」
アキ「下世話に言ってオーガズムに達してないとかそういうことではなくて?」
とも「下品だわ!15才の子供を捕まえて」
アキ「ははは、でも私の15の時なんて、それはもぉ・・ひどいあばずれだったよ、命短し恋せよ乙女って知らないの?乙女って12~16のたった四年しかないんだよ、一度に一つじゃなくてたくさん恋したほうがいいと思うな、すぐに骨っぽいクソババァになっちまうんだから、もしくはロシア女みたいなケツの化物になっちゃうよ」
とも(私は顔を真っ赤にして何も答えられなかった、ダメだ、相手が優秀すぎる、私の心理状態なんて手に取るように読まれてるんだ。やんわり俊はやめといたほうがいいよって事を言ってくれたみたいだ。でもこんな集団生活で、男が一人では・・・どうやったってダメだ。紫禁城でずっと待ちぼうけ食わされてる女中並みにダメだ、自慰するわけにもいかないし、私はそんな変態じゃない。だから女ってヤダ、永久に悪魔に裸で追われているんだ、チクチクとあの槍で自尊心を傷つけられながら、運命の人とやらがすんなり現れてすんなり結婚してしまっても味気ないし・・・悪魔から逃げるには悪魔につかれた人間を見つけることだ・・・それにしたってお腹が空いた、なんでみんなちっともお腹が空かない感じなんだ?この美男美女って生き物どもは!何もしないでも人に劣等感を抱かせやがる)
とも「お腹空きましたね」
アキ「全然、まだ起きたばっかりだし」
とも「みなさん、お腹空きませんか?」
俊&海里「まだだいじょうぶ」
とも(ちきしょう、レジスタンス部隊じゃあるまいし・・・結局のところレジスタンス部隊はテキパキと日暮れ頃まで何一つ不平を言わずに作業を続けた。ただ一人の外人義勇軍の私は、後半はもうガス欠のタイガー戦車みたいに動きがスローになった)

 海里「さて、今日はこのくらいでいいでしょう、お疲れ様。届いた荷物の中に食べ物とか、ガスバーナーとかもあるはずだから」
アキ「ありがとう、お食事用意してもらって」
海里「もともと私のわがままに付き合ってもらってるだけだから」
アキ「私のわがままでもあるんだけどね、首謀者二人、共犯二人、オカネの面ではまったく援助出来ません」
とも「うあぁ~やっと飯かぁ、もぉくたくたぁ、ぺこぺこぉ・・」
アキ「何スポーツ漫画の補欠みたいに弱音吐いてんの」
俊「誰が作るん?」
激しく火花が散る
アキ「まさかローテーション制なんて導入するわけにはいかないでしょう」
とも「真剣じゃんけんは久しぶりだなぁ・・(手をこう支えて望遠鏡を作る)
俊「それやる奴久しぶりにみた」
海里「じゃんけん自体ひさびさだな・・」
俊「それ以前に料理出来るんだよね?」
アキ「割りと・・」
とも「たぶん・・」
海里「・・ノーコメント」
俊「・・はい、おれが作ります」
アキ「ウラー、料理できる男の子かっこいぃ」
とも「イタリアンで」
海里「中華で」
俊「おれの食いたいものを作る No complain needed」

 海里(俊はベジタリアンなので(私は知ってた、彼は給食を食べない弁当持参だったから)から豆と野菜を中心としたイギリスの朝ごはんみたいなものを食べさせられた、私は栄養になれば何でもいい主義だから、さっと食べたけれど、ともちゃんは全寮制の食事を初めて食べた学生みたいに超不満ヅラだった、アキはコーヒーが主食(カフェインが)だからヴァン・ゴッホみたいにコーヒーを飲みまくっていた。あと彼女はチョコレートにも中毒していて、チョコがないと卑猥になってしまうからコーヒーとチョコ、ココアも完備せよと宣言した。俊の料理は味はそれほど悪くはない、が嘘みたいに薄い)

海里「さて、夜は頭脳労働なんだけど、私はまだ設計が終わってないから・・・Feynman phisicsから手をつけてはいかかでしょう、freshman sophomore向けだから、ぴったりじゃん、それに最近改訂版になったから」
アキ「goooood damn it 1376ページもあるよ、日本語に直したらたぶん2000ページはあるよ。それに一頁の情報量がハンパねぇぜちきしょう」
俊「これが名にし負うファインマンか・・、本当にまだこれを使うんだね」
とも「私も聞いたことある」
海里「基本のキ、有名すぎて解説書まであるよ。探せば補足資料も色々出てくるんじゃないでしょうか。じゃあがんばれ、未来のphisician達」
アキ(海里はなんかSッ気に満ちた教師風のぷりぷりした歩き方でまた地底へと帰っていった、彼女はおしりの形がいい、上向きだ)
アキ「・・あの人同い年だった気がするんだけど」
俊「何か、こう知識が電撃的に海馬に刻まれるみたいな装置は無いのかなぁ、そういうものが出来ない限りどんどん教育期間が長くなって、未来人は学校に50年くらい通わないといけなくなるよ、ともかく日本語で子供を育てるのは一切辞めた方がいいと思うな、地域言語として後から学びたい奴だけ学べばいいじゃん、それだけで二年は教育を短縮出来る。・・・・というか人生で一番楽しくて、一番幸せな期間を勉強に当てるっていうシステムは、本当に正しいのかね、若い時はもっとくだらない遊びやSEXばっかりして、30くらいになって衰え始めてから学問をやればいいのに・・・」
アキ「そんな下半身だけの人間使い物にならんじゃない・・ともかく医療の進歩がそれを追い抜くか、追い抜かれるか・・・今はもう完全に諦めてるもんね、社会が必要としてる知識レベル、つまりみんながcernとかIterの仕組みを理解して、きちんとエネルギー問題とかに話し合いが出来る状態、は夢物語だもん、みんなてぇへんだてぇへんだとかいって核発電から太陽光発電に飛びついたりしてみるけど、全然何の解決にもなってないもん、ただ企業が儲かるだけ、太陽光発電をするための設備投資がすでにてぇへんな事を巻き起こすし、太陽光発電に頼るよりも、もっと直接的な核発電に頼るほうがいいに決まってるじゃん、太陽がねぇとこじゃ太陽光は使えねぇんだから、そういうくだらない予算を全部核発電のほうにあててればとっくにプロトタイプのトカマクは完成してたのに・・・だから科学者たちが勝手に人類の行方を決めて、大衆が議会と選挙と国連とCOPでいつもそれに反対する、ともかく未知のものは恐ろしいから、それの繰り返しじゃん。いつか大衆が科学者を全員縛り首にしてもう科学なんてやめっちめぇ!みたいな事になるかもよ、ポルポトとかってそういうことに近いものだったのかなぁって思うんだ、いつかノスタルジーが爆発して未来を食いつぶして未来を過去にしてしまうかもしれないよ、クレヨンしんちゃんオトナ帝国の逆襲ね・・あれって逆シャアのオマージュなのかね?」
とも「くだを巻いて、このテクストに手をつけるのを避けてますか?」
アキ「はい。あぁ~~仕方ない、読もう読もう。手で計算するの自体が久しぶりだよ、まず英語の学術用語を覚えないと・・・ともちゃん辞書ひく係、俊はノートね・・・These are the lectures in physics that I gave last year and the year before to the
freshman and sophomore classes at Caltech・・・・
 
   アキが序文を朗読中

 ・・・・1963。1963! ....私の親すら生まれてない」
俊「右に同じく」
とも「もちろん」
アキ「ともちゃん英語わかってる?」
とも「わかりますよ、私帰国子女ですもん」
アキ「そうなん?なら安心」
俊「どこ?」
とも「アングレアス、まぁspatial dependance of amplitudeが一体何の事なのかさっぱりわかんないですけど」
アキ「The power of instruction is seldom of much efficacy except in those happy dispositions
where it is almost superfluous GIBON、これってどっちにとればいいのかね?」
とも「どっちとは?」
アキ「教育の力はほとんどの場合たいして効果はない、幸運な性質たちを別としてそれはほとんど不要なものだ。・・だから幸運な性質を持った人には教育は必要無いのか、幸運な性質を持ってない人には教育は必要ないのかって事」
俊「どっちにしろ教育は必要ないって事じゃない」
アキ「だとしたらあまりにもシビアだね、ギボンってそんなヤツだったっけ?」
俊「I was never less alone than when by myself.
(私はたった一人でいる時よりも孤独を感じない時はない)
I never make the mistake of arguing with people for whose opinions I have no respect.
(私はその人の意見が尊敬出来ない人間と議論するという過ちを犯したことはない)
ギボンの名言、ネット調べ」
とも「そういう人みたいですね」
アキ「i was never less alone than when by myself・・・、下の人が好きそうなコトバ」
とも「アキなんかしゃべりかたが変わりましたね」
俊「カフェインドライブが入ったからでしょ、それと前バージョンにだんだん戻ってるような気もする、学校無いと優等生キャラをする必要もないからね。デフォルトでは・・・こういう性質の人間なんだと思うよ」
アキ「私については彼のほうが詳しいようです、ただデフォルトの私は・・どこにもいないんじゃない?水澤アキってのは作家水澤アキが作った唯一の人格で、後は借り物、タブラ・ラサの自分っていう人間は、幼年時代の作られた幻想だと思う、幼年時代が素晴らしい思い出に満たされているとしたら、それは事実ではなく幻だからだよ・・はい講義に入ろう、そろそろ・・・・Atoms in motion」

俊(ファインマンはさすが名著というだけあって、英語のテクストを読みなれてないことを別にすればすんなりわかりやすかった・・これって結局受験勉強やってるのと同じになってないか・・海里はなんだかんだいってそれも見越して工程表を作っているのかもしんない・・・無い、それは無い。あいつはそんな・・・しかし・・それが出来る人間だからなぁ・・ついでに他の効用も見込めるならやっておくにしくはない・・・)