2012年3月14日水曜日

L'Ettranger  文字コンテ ep6 troi

                                                            6 troi
 トモ(けばけばしい装飾と、センスのないライティングの天井。私が処女を失ったこの部屋は、たぶん明日にはすぐに忘れてしまうだろう。この彼氏だってすぐに、記憶の彼方に消えてってしまうだろう、ヒトが天井を見上げるのは・・・、少なくともそれを意識するようになったのは庵野監督の仕業だ・・21世紀は・・記憶の中に埋もれているような気がする、遠い遠い記憶の中に私は迷い込んだ)
男「シャワー先入るよ」
トモ「あぁ・・うん」
男「・・どうだった?」
トモ「・・わかんない」
男「なれれば良くなっていくって話だよ、なんだかおれもあんまりよくわかんなかったなぁ」
トモ「かもね・・・かもねかもねそ~~かも・・」
男「古っ・・」
トモ「別にゴムつけなくて良かったのに、子供産んでみたかったし」
男「怖っ・・・、こっちにはそんな覚悟ないよ」
トモ「いいよ、私一人でも。遺産があるもん」
男「じいちゃんが金持ちだったんだっけ」
トモ「そう、というかただ土地を持ってただけだよ、じじぃが死んだらよってたかってみんなでそれをカネに変えちまったというわけ。この街で残り少ないいい雰囲気と森を持った家だったのに、高層マンションに変えられちまったというわけですね。別に批判しないよ、私もそれで利子生活者の仲間入りだからさ」
トモ(彼は話の途中でシャワーに行ってしまった、初めてのラブホテルが新鮮だから色々試してみたいらしい、もうお別れだよ。さようなら・・オカネを多めに置いて置き手紙を書いて静かに私は出ていった、なんだこの高校1年生らしくないふるまい・・・中学1年生で、何もしてないのにお金持ちの仲間入りをして、周囲のふるまいが突然やさしくぬるま湯に満ちたものになった。別に嫌いじゃないけど・・・今まではまっていたゲームが突然裏技で超簡単にクリア出来たみたいに拍子抜けだった・・・この社会っていうゲームがつまんなくなった、人生っていうゲームが、このまま投資信託の月報を気にしてインスタント食品を食って、ワールドカップとオリンピックを楽しみにしてただ醜く老いてガンでも患って死ぬのかと思うと気が滅入る・・・それでなるべく痛みのないやり方で安楽死を、なんて・・・ふと目を上げると山手線の、えっ・・・?あれどうやってかいたんだろう・・たぶん裸の聖母みたいな絵が描いてある・・何の広告だろう、えらくセンスいいなぁ・・・山手線の駅のJRのところを隠すようにその絵が描いてある。アドレス以外なんの情報もないけど・・・JRも広告収入稼ごうと必死なんだなぁ・・なんだろう・・何かファッション雑誌とコラボかな・・装苑とか・・写メをとって後で調べてみよう・・まさかバンクシーが日本に来たんか?・・それともバンクシー気取りの何ものかが・・・楽しそうだな・・ストリートアート・・パーカー縫おうかな・・補導されたら誰が引き取りにくるんだろうか、おかんは連絡つかんし・・おばさん?・・顔も思い出せん。っていうか本当に未成年が捕まったら誰かが取りにくるんだろうか、刑事ドラマの都市伝説かなんかなのかな・・
 学校の近くはやだという小心者の彼だったから無駄に山手線を半周してしまった、何やってんだ私・・・、しっかりしろ。さっきの写メをよく確認してみるとウェブページじゃなくてメールアドレスが書いてあったのだとわかった、しかも普通の民間捨てアドだ、やっぱ企業コラボじゃなかったんだ。・・・なんか寄付して下さいみたいな事自動返信されるのかしら・・・寄付してやろうかな。ますます私はいやらしいあの年寄りのユダヤ人のクソババァに近づいてる(罪と罰のね、あの人名前あった?)もしくはクリスマスキャロルのスクルージ、ヴェニスの商人の・・・

 聖母の絵見ました~♪どうやってあんなところに書いたんですか?私もやってみたいです☆寄付金でも募集してるんですか?
              ラスコーリニコフに殺された老婆より(15才♡)

 絵文字でもっとブリブリした感じで送信。迷惑メール並みの文章の節操の無さ。すぐにやれそうな女を装う(真実でもある)最後にちょっとスパイスを入れておく。

 私は・・もしかしたらレズなのかもしれない。いきなり何を言い出したのか・・でも子供の時からもしかしたらはあった、プールの女子の更衣室で私はいつも恥ずかしくて着替えられなくてトイレで一人で着替えてた・・幼児体型なのに胸だけはやたらと早く成長してしまったってのもあったけど・・レスボス島に旅行にでも行こうか、もうすぐ夏休みだし。レスボス島にはレズビアンがいるというのもたぶん都市伝説なんだろうけど(ただの伝説か・・)、アマゾネスは一体どこに生息していたんだろう・・・それは忘れてしまった。アマゾン川流域じゃないことは確かなんだけど・・・
 今乗車してきた高校生らしき人をみてなんとなくそう思った、なんだろう・・あの、透明感。芸能事務所はこういう人をスカウトするんだろうな、私だったらスカウトしてるもん。なんかビデオカメラ?のようなガジェットを手にして映像をチェックしてる。アイドルっていうよりは女優顔だな・・眼がぱっちりってわけじゃないけど・・・澄んだ憂いを持った眼というか・・・アイルトン・セナは憂いを持った眼をしていた・・思い出した。あれは添えものの眼だ・・詳細は覚えてないけど宮本武蔵が、どっかの大名の家に呼ばれて、私の家臣の内でこれはと思うものは誰かと聞かれ、武蔵は一目見て、ただ一人の者を選び出す。なんでこの者が良いのかと大名が聞くと、武蔵は本人に日頃の心がけを聞いてみなさいと言う。本人曰く、これといってないが、私の命はまったく添えものようなもので、まったくそれに執着なく、命を捨てる必要があれば何の迷いもなく捨てることができる、といって命を粗末に扱うという意味ではなく、君主に仕える事に全力を尽くす覚悟が出来ている。大名はその家臣を取り立てて、良い地位につけるとそのとおりの活躍をした云々。武蔵には、死ぬ覚悟ができている人間と、できていない人間が、ちらと見ただけでわかる能力があったらしい、覚悟のできてない人間は切らない・・・うろ覚え。
 
 武蔵でなくても私にもわかった、彼女だけがこの車両で異質、まるでこの世界に属してないみたいな浮遊感と透明感を持っている。他の人間は・・何か恐怖に突き動かされていた、貧困、死、空腹、孤独・・・私がずっと視姦していたのに気づいて眼があった。私が男だったらたぶん他の車両に逃げたのかも・・・、いやそうじゃないな・・、ともかく女に睨まれて意外そうな顔をしていた。あれ・・知り合いかな・・っていう顔。どうしよう・・話しかけたいけど・・・冷たくされたら一週間ほど落ち込みそう・・それに何といって声をかけたらいいかわからない。あなた死ぬ覚悟が出来てますね、なんて言ったら、キチガイだと思われるに違いないし・・・あなたカワイイですね、なんて言ったら・・・なんだこの気色悪い小娘はと思われるだろう・・へい、彼女おちゃしないなんて・・・ムリムリ、絶対無理。今になって処女膜を失った下っ腹が鈍痛だし・・・それにシャワーを浴びないで出てきてしまった私はひょっとしたら臭いかもしれない・・今日の服装だってもう少し気を配っておけば良かった・・油断した・・・。超消極的な手段で私は本を取り出して読むことにした、彼女がもし読書好きなら、あっ、その本いい本ですよね、みたいな感じで話しかけてくれるかもしれない。・・・徹底的にモテないドブス女みたいなアプローチの仕方だ・・・
 かばんをあさってみると、運悪く金融関係の本と風と共に去りぬしか入ってなかった、クソッなんでこんな時に限ってこんな俗悪な本を選んじまったのか!まさか金融関係の本に興味がひかれるようなヒトでは絶対に無い、というか私自身金の亡者だなこのビッチ、と思われるのが嫌で人前では読みたくない。ともかく奇跡を信じて風と共に去りぬを読まねば・・もしかしたら映画好きで、映画版を見てるかもだもの、私は映画見たことないけど。二さんページくってふと眼をあげてみると、もう彼女はこつ然と消え失せてる上に、私は二駅も乗り過ごしていた。なにやってるんだ種田朋子・・・しっかりしろ。
 仕方ないから行きつけの生地屋にいってパーカーを縫うための生地を切ってもらった・・、手芸部のキャプテンだった私は、自分の服は自分で作る派だから・・・、なんだこの凍えるような寂しさ・・・
誰もいない家に帰って、私は何かペットを買う必要を痛切に感じて、独身の30代女みたいな自分に自己嫌悪した。あのヒトは・・・私はお姉ちゃんが欲しかったんだ・・、いがみあって、ケンカして、でも服とか靴を貸し借りして、ファッションの相談には辛口だけど真剣にのってくれて・・私の彼氏を30点とか赤点で評価してくれるような・・・、それでいて美人で、読書好きで、勉強を教えてくれる、自慢のおねえちゃんが欲しい・・・。親とさっぱり仲がうまくいってないし、親類からも遺産の取り過ぎて妬まれている私には、そんなヒトが必要だ・・・友達や彼氏ではダメなんだ・・・実はこの思考サーキットはもう何周もしてる・・・一人で生きていける人間もいる、けど絶対に一人ではダメな人間もいる、私は後者だ、私はシャフトやギアでエンジンじゃない、誰かエンジンに引っ張ってもらわないとダメになってしまう。けれどもお姉ちゃんが欲しいなんて、100%無理な願いだ、妹ならまだ可能性はあるけど・・そこで私は子供を作ろうと考えた、しかし実際15才の女の子を孕ませるほどの勇気がある男は近頃滅多にいないし、イカレタ変態さんの子供もヤダ。少しはまともな遺伝子が欲しい・・多少教育があって、体つきはほっそりとしてて、顔は卵型で、眼は当然二重で鼻はしゅっとした感じ、色白で、歯並びも良くて、髪質は外ハネのあまり太くない感じ、眼の色はなるべくグリーンがいい、そしてタレ目ではないほうがいい、体毛が薄くて、おしりが上向きのきりっとしたライン、背は高すぎるのもよくないし、168センチ以下は論外、運動神経抜群で・・・どこかでなめてんじゃねぇバカっていう罵声が聞こえた気がする・・・。裁ち切りが終わったくらいのとこでメールが来た、さっきの返信だ。
 
 Hi,we need stuff Mrs ...(i can't remember your name, do you have name? I'm sorry for your sis anyway) making movie or something like that, its about suicide coz its free and really....interesting. if you have lot of free time need no hourly rate, plz send me your free time and where you live , i love to see ya bye.
(ちわ、私たちはスタッフを募集してます・・・えっと名前思い出せない、名前あったっけ?ともかく妹さんのことはお悔やみ申し上げる・・・映画みたいなものを作るために、それは自殺についての作品です、何故ってそれはタダだし・・・興味深いから。たくさんの時給を必要としない余暇があるなら、暇な時間とどこに住んでるかを教えてね、会う日を楽しみにしてます、バイバイ  訳 とも)

 一ヶ月半ほど何一つ予定が無い(自分で書いて唖然とした、15才の青春のどまんなかの少女が夏休みに何の予定も無いなんて!)山手線沿線に住んでると返信した。面白そう・・映画か・・・自殺か。確かにそれは、非常に・・・安価であって、興味深い。インディ映画が自殺を題材にせざるを得ないのはそういうわけだ。なんで英語で送って来たんだろう、おばかちゃんはお断りってことなのかな・・。ユーチューブで過激派がチェーンソーでクビをちょんぎっている時代だけど、映画で本当に自殺するのを撮るのは斬新だな・・・それってタブーなんじゃ・・カンフー映画で本当に死んだってのはまぁよく聞く話だけどさ・・メールの文体を見るかぎり、もしかしたら女?トレインスポッティングという映画で、この映画はドラッグを美化してる、と問題にされた事があった、ユアン・マクレガーが、他の映画は戦争と殺人を美化してると反論していた。まったくそのとおりだ、私たちは殺人は何かちょっとワイルドな事くらいにしか考えてないのに、ジャンキーにはあたりが厳しい。当然自殺にも風当たりは厳しい、なんでだろう・・・探偵物や刑事モノは毎回殺人事件が起きるけど、犯人に対して、怒りを覚えるやつなんてあまりいない、興味の中心はトリックと名探偵の鮮やかな手腕だ。
 誰が自殺するのだろう・・・、背筋がゾッとした・・つまり、それって私がそれなんじゃないか、スタッフ募集って多分そういうことだ・・・ こわっ・・それが裸の聖母の意味なのか・・でもなんで怖いんだ・・・私をそれから遠ざけているものは一体なんだ・・私はこの世界とつながってない・・・そしてともかくこのヒトと会ってみたい・・、会ってから決めよう。