2012年3月22日木曜日

L'Ettranger  文字コンテ ep12

                                                           12 sorge

 とも(それから一週間ほどは同じようなルーチンワークをやった。昼は掃除と整理とインフラ整理、夜はファインマン、私はとうとうベジタリアン生活には耐えられなくなってピザなどの出前を取ることにした、アキの影響で海里も俊もココア中毒に陥り、その栄養価と吸収性を賞賛してだんだん登山家グループみたいなストイックな機能重視派になってしまった、私は一人ファストフードを食らいつく文明人の立場を守りたいと思う、整理が大体終わったところで、色んな工作機械の出番が到来と言うことにあいなりました)
海里「複雑な部品は外注にするけど、簡単な加工は予算の都合もあってこのlathe(旋盤)とdrill machine、mill machine(フライス盤)によって行う事にします。といっても私は理論で、工作にかんしてはみんなとおんなじトーシローなので何の手助けも出来ません。当初の計画では、熟練工を雇うつもりだったんだ、こんなノーサラリーで協力してくれる人がいるとは思わないじゃん?でもタダでやってくれる人がいるならそれを使うにこしたことはない。それに・・たいして経験も知識もない人がなにかやるほうが、意味がある、前にも言ったかな?
 ついでに言っておくと外形、とか基本的な構造は、この鉄とカーボンナノファイバーを組み合わせた、新素材で・・これは熱すると強度が硬くなってダイヤモンドカッターでも切れなくなるけど、熱するまでは粘土みたいに扱えるスグレモノで、工作というよりは、彫刻みたいなものです、陶器みたいに熱して体積変化が起こることもないから、これから主流になるだろう素材です、実際宇宙素材として使うにはもっと高級なものが必要だけど、私達のENT(終わりなき夜の旅 eternal night traveler)では大気圏突入による摩擦などは考えなくてもいいわけだからこれで十分、実は有人宇宙計画で一番大変なのは帰ってくる事なの、それが無いとすれば、かなり激安で行ける、日本はハラキリやカミカゼなど命をぶんなげるような伝統があるから親しみやすいと思われます。ともかく中の機械的な部分、ドアとかそういうのは工作で、外形はアート、どっちも熟練が必要だから役割を分けたほうがいいと思うんだ。機械はもちろん内部は私がやるけど・・機械やりたい人?は俊君で決定」
俊「質問から断定までがコンマ数秒しか無かったような気がするんだけど」
アキ「必然的にそうじゃん、ともちゃんは学校あるんだから」
とも「申し訳ない」
海里「つまり、フォルム作成はアキとともちゃんに任せます、もっと単純な事を言えば力仕事は全部俊君に丸投げしました」
俊「わぁ正直」
海里「でも水生成機械とか、生命維持装置とかは、向こうの友達に試作品をもらい受けるからそれほど大変ではないはずです。・・それで、ちょっと仕事に慣れる為にいきなりロケットではなくて何か小さなプロジェクトを挟むほうがいいと思って。オートバイか自転車を作ろうと思うんだけど?」
とも「わぁ、楽しそう」
アキ「じゃあモーター付き自転車がいいんじゃない?昔のホンダが作ってたみたいな」
俊「モペッドっていうらしいなそれは、ホンダ Aが有名(ネット調べ)」
海里「じゃあそれで行こう、エンジンはガソリンじゃなくて電気にしたほうがいいね」
俊「それは電動モペッドというらしいね」
とも「それって電動アシスト自転車って事?」
アキ「そういうとおばはん臭いからモペッドなんでしょ」
とも「そうか」
海里「じゃあざっくり設計書いてしまうから、それまで俊君はマニュアルよみ、二人は、デザインでも決めて」
三人「ラジャー」

とも「さて、とりあえずネットで資料探しましょう」
アキ「うん・・自転車で困る事って何?」
とも「・・・特に無いですかね・・あぁ、荷物が載らない、ギターとか。」
アキ「そうか・・じゃあトライク(三輪)にして荷台を作ろう、他は?」
とも「トライクだと置き場所に困る」
アキ「折りたたみ式にする・・他?」
とも「重い」
アキ「あの素材は軽いんじゃない?知らないけど。雨に弱いじゃない、一番は?」
とも「なるほど」
アキ「だから屋根をつけよう」
とも「斬新ですね」
アキ「モーター付きだからギアはいらないよね」
とも「あといい自転車はすぐにパクられる、駅前に置き場所がない」
アキ「パクられるのを防ぐには滅茶苦茶派手にしてすぐに足がつくようにすればいいね、後者は私じゃなくて政治家に文句言って、日本の道路はハッキリいってアスファルトの掃き溜めで道にすらなってないって」
とも「名前は?」
アキ「・・ゾルゲ」
とも「スパイ?」
アキ「違う、ハイデガー哲学用語、真っ赤にしよう、なんとなくナチス的デザインがいいな、ナチスってデザインのセンスは抜群にいいよね、SAのロゴとかめちゃかっこいいもん。ナチスの専属デザイナーは誰だったんだろう?」
とも「色んなとこから苦情があるのでノーコメントです」
アキ「でも作家ってのはヒトラーにコンプレックスがあるものだよ、だってナチスは歴史上最大級クラスの総合芸術だったもん、コンセプトアート、作家の夢は一つの世界を構築することにあるとすれば、ヒトラーというアーティストはそれに成功したんじゃない、偉大さってやつをベクトルや価値観を無視して絶対値で評価できるとすればヒトラーが成した事はジョンレノンがしたことの100倍くらいの数値があると思う、実存哲学的評価だけど・・・それと私はいつも言うんだけどヒトラーはマジでアーリア人種を愛していたと思うんだ、普通の政治家が自分の国を愛するなんてペラッペラの嘘で、窮地に陥ったらすぐに国を捨てるに決まってるし、可愛いのは自分とせいぜいその家族が限度なのにヒトラーのそれは本気だった、もっとも残酷な行為が、もっとも真剣な愛情、しかも特定の人間ではなく博愛に近いものから生まれたとしたら、ナチスを批判することはとたんに難しくなるよ。現代文明人が無害に見えるのは、誰も愛さないからだってことにもなるしね、愛が無い世界では殺人も無いはず、人間に対するゾルゲが無いのだから・・この社会は愛が無いと思わない?アフリカで誰が死のうと、どんな動物が絶滅しようと、どれだけ森がなくなろうと、おれの生活が大事、誰も殺そうとは思わない、積極的に殺そうとは思わないけど、犠牲になるなら仕方ない、けどそれはおれのせいではない・・・」
とも「そういうぎょっとするような事を言うのやめてくださいよ、夜中に思い出してひやっとするから。後ろの荷台はカゴにしましょう、カバーをフードでつけるようにして、ちょっと・・アールデコっぽい感じ、後ろのタイヤは大きいほうがいいでしょ?貴族っぽくて?」
アキ「うん、ハプスブルク帝国風ね、だったらもっと繊細なラインにしたほうがいいんじゃない?壊れやすそうだけど、頑丈で軽いって話だしどうせならホイールハンドルにしちゃうか」
とも「タイヤは白にしましょう」
アキ「そうするとこの窓の部分は角張ったほうがいいよ」
とも「・・・これどうやって乗るんですか?」
アキ「そうか・・ドアね、ドア」
俊「どんな具合?」
とも「ついにさみしくなりましたね」
俊「退屈なんだもんこのマニュアル・・・わぁ・・・色んな意味ですごいな,ベロモバイルみたいになったね」
アキ「わざと悪趣味にして盗まれないようにしようってコンセプトなの」
とも「きっちゅってやつですね」
海里「はい、出来た」
アキ「はやっ」
海里「こんなのエンジンにチェーンからませるだけだもん。どんな感じ・・うわっなにこれ、趣味悪い、マニエリスム?」
とも「ウィーン世紀末派です」
俊「わざとゴテゴテにして盗まれないようにしたんだって」
海里「確かにこれを盗むのはタマだけど・・、あんまり乗りたくない」
アキ「乗りたいよ、コスプレ感があるじゃん」
海里「まぁいいけど・・じゃあディテールと寸法決めないと・・アキって実はexibisionistなの?」
アキ「今頃気づいたの?服装からして気付きそうなものなのに・・ねぇ?」
とも「ん~海外では感覚が違うんじゃないですか?(あと胸が無いからじゃないですか)」

 とも(またドクター海里にすべて丸投げして、設計図を書いてもらった。天才ってのはなんて便利なんだろう!(私たちは天才って事で何もかも済ますのに慣れてしまった)一家に一台欲しい。私たちはインスタントラーメン片手に工具の点検、マイクロメーター、ノギス、電ノコ、など使ったこともない代物から、錆びまくってるスパナとドライバーの山。もともと自転車工場だけあっただけあって、材料には不足しないみたいだ、ペダルもサドルも、欠けたり、スポンジがなくなってただの木の板になったものなど色々ある)
とも「チェーンも!どれもこれも錆びまくってますね」
アキ「そりゃ錆びるさ、触るとネチョネチョするからやめたほうがいいよ」
俊「劇的にややこしいなこの・・ミルマシーン、旋盤は要するに金属のろくろみたいなものだってわかったけど、こいつはクセもんだよ。先端のエッジだけで200種類くらいあるよ・・」
アキ「極めれば技能オリンピックに出れるよ、まぁ・・もう今は電脳処理か」
とも「・・あれですね、宇宙船作るのも結構、平凡な積み重ねですよね、映画にちゃんとなりますかね」
アキ「さぁ、でも私は好きだけどな、こういうちまい地味な活動、毎日誰かが死んだり、大事件が起こるわけにはいかないじゃん、それと俊それが出来るようになったらストーカー3を作るの手伝ってね、2はずっとあそこで撮りっぱなしだから3が必要なんだ」
俊「はぁいはい」
とも「確かに、私たちは楽しいですね。あぁもうすぐ夏休み終わっちゃうなぁ・・」
とも(全開に開いた門から夏の日差しをみやる、そう、門を完全に取っ払ってまさしく飛行機の格納庫っぽい外観になった。犬が欲しいな・・シェットランドシープドック。コンクリートの冷たい地面に夏のコントラストの強い日差しが差し込んでいる、私たちは暗がりからそれを見つめている・・・空が青い、この工場はクーラーをつけなくてもすごく涼しいから(たぶん天井が高いからだ、あとすきま風が吹きほうだいだから)夏を感じるには適してない。冬はどうするんだ・・死ぬほど寒いと思われる・・(アキがセンチになっている私の後ろ姿をポラで撮っている気配がする、抜け目がない人だ)・・でもこんなに夏休みが終わって欲しくないのは初めてだ、いつもならずっと休みなのにも飽きてしまうのに・・ん?)
とも「宿題全然やってない!」
アキ「学園コント始めるなら一人でどうぞ」
とも「え~~~二人もでしょ!?」
俊「受験生に夏の課題なんてないよ」
とも「ガッデェイム!!二人とも落ちてしまえばいいんだわ」
アキ「でもむしろ物理と数学はもっと出来るようになった気がする」
俊「確かに、理系にするかな・・」
アキ「受けるの?」
俊「一応、アキも一応受けないと学校が失望するよ」
アキ「・・まぁ受けるだけ受けてやるか、センターは・・・学費が奨学金が出て図書館が充実してるとこがいいんだけどな、どの学部に入ったところでどうせ自分で勉強するんだし」
海里「出来ました」
アキ「ご苦労様です、カレーヌードルが出来てるよ。それとともちんは急に帰らないと行けないってさ」
海里「そっか、もう夏休みも終わりだもんね、新学期って感じなんだけどなぁ私の感覚では」
アキ「想像できないんだよね、夏から新しい学年が始まるなんてさ、私達が少数派なんだけど」
とも「申し訳なし・・土日と休みは来ますから、あと犬飼いましょうねシェットランドシープドック、こんなに広い空間があるのに犬がいないと寂しいでしょ」
アキ「あぁ今なんかすごい明確に、久しぶりだねぇとかいって三時間も経ってないのに永遠の別れみたいにじゃれつく犬をあやしてる君の姿が写った・・ちゃんと自分で世話できるの?」
とも「はい!」
アキ「散歩も連れてく?」
とも「はい!」
アキ「仕方ない」
海里「すごい勝手に決めたね」
アキ「いいでしょ?」
海里「別にどっちでも」
俊「じゃあ代わりに人手を増やすの?別に少人数でやらねばならないっていうルールがあるわけでもないんだし」
アキ「私はそれは反対だな、特に意味は無いけどなんか少人数でやったほうが冒険者っぽくていいんだよね。そうしたほうが失った時のダメージが大きいでしょ、冒険者は、確実に仲間を失うものなんだ、だからこそかっこいぃ、指揮官みたいにさ」
海里「ん~~、私も人海戦術はしたくないな。けど一人増えるかもしれない、ほら前にも話したでしょ?ともかく、今日ともちゃんがいるうちにこの・・」
アキ「ゾルゲ、って名前つけた」
海里「ゾルゲを作ろうよ、基本構造だけでも」
とも「はい、そうしましょう」

アキ(ゾルゲプロジェクトは俊の工作機械がまったく上手くいかなかったのを除いではすんなりいった、この粘土細工も簡単だし、バーナーで熱すれば、熱がどんどん拡散していく化学反応なのでとても楽チンだ。俊もスクラップと金属ゴミを積み上げてようやく形になるものができるように鳴った、たこ焼き器みたいに慣れればなんであんな汚いものを作れたのか不思議になると本人は語る。あっとい間に夜は更けぬ、珍しく海里も今日は夜ふかしはしない日と言ってお菓子などを食べ飽かす、こうしていると普通の女の子というか・・見た目からいくとせいぜい中学生だ、ともちゃんよりも下に見える、もし資金が尽きたらエロビデオでも撮って売り出せるんじゃないだろうか、おしりの形もいいし変態には受けるに違いない・・・)
海里「なんなのその・・やらしい目で人を見て、まさかレズ?」
アキ「違うよ・・、うん違うと言わせてくれ、実際わかんない。アルコールなんかあったっけ?」
俊「アルコールがあるよ、原液の」
アキ「よし、アルコールコーラ割りを作ってあげよう」
とも「美味しいんですか?」
アキ「味はコーラだよ」
俊「言い切ったな」
アキ「これがもし脚本ありの映画だったらともちゃんは死ぬね、交通事故か何かで、それで犬だけが私たちのところへやってくる。♂なのにともジュニアとかなんとか名前がつけられてさ」
俊「だとその次におれが死ぬな、なにかエンジンの事故か何かで」
海里「だと私も死ぬハメになるじゃん、そして意思をついでアキが火星へと旅立つんでしょ、犬も連れてって。死因は何?」
アキ「放射線被曝」
海里「放射能は出ないとゆうに」
アキ「映画見てる人は核分裂と核融合の違いなんかわからんもの、そのくらい適当でいいんだよ」
とも「ちょっと勝手に殺したあげく、もう完全に脇役になってるじゃないですか」
アキ「ハハハ、ほら出来た、飲みな」

 アキ(その後のコトはほとんど覚えてない、原液のアルコールは強烈だということを次の日の頭痛とともに実感した。カニグズバーグの小説でなにか・・研究室でLSDを作る話も思い出した。ともは無事に家についたということを何度も報告してきた、よっぽど死ぬのが怖かったんだろう、そう・・人は簡単に死ぬけど、あんまり死なない、ポラに写った彼女を見ると元気だった頃の彼女を思い出すw
 ともは三日後にはまたやってくるはず、それまでにゾルゲを完成しておきたい)