2015年7月2日木曜日

1904 ノッティングヒルのナポレオン   The Napoleon of Nottinghill

  レビュー
この本の設定は1905年のロンドンの80年先のミライ。というわけで1985年、そしてその20年後の2005年がだいたいの場所なんですけど、不思議な偶然というわけでオーウェルの1984と一年違いのミライを描いた小説なんですね、チェスタトンの1985、ってわけで。


 内容はこっからネタバレしますけど、ロンドンは愚者専制政治という国王をくじ引きで選ぶという政体になっています、それでたまたま選ばれた国王、クウィンは天性の道化であり、あらゆるものがマネーゲームと化した近代世界を中性的な王政みたいなものへと戻そうとする、その冗談を真に受けたアダム・ウェインという青年がノッティングヒル帝国を作る戦争を始めるっていうお話です。
 アイデアはすげー面白いし、特に前書きがよく出来ていると思うのです。

 チェスタトンってヒトは元は詩人で、しかも親が勝手にじゃなく自分でカトリックになった、しかもデブというなんでしょうね~・・、こういってはなんですけどクズみたいなヤツなんでw 
 ただ善人ほどくそ面白くもないイキモノはいないわけで、悪人こそが面白いものを生み出すのですな。
 この小説を読んでなんか違和感というか飲み込めない感じを覚えるヒトは、本を書くようなヒトは偉大で賢くて良い人なんだっていう思い込みがあるのですよね、チェスタトンって人は、それほどクズ中のクズってわけじゃないけど、お人好しの善人なんかじゃ絶対ありません。


 ノッティングヒル帝国というロマンティックな擬古典主義の帝国っていうのは、これはナチスそのものですわね。チェスタトンの予測はびったし一致したわけです。ナチスは現代の観点では信じられないような神話的なロマンティックな政体でした。

 すごくいい文句があるので下に書き出してますけど一番刺さる文句はこれじゃないですか?

「ヒトを老いさせるものは帝国であれ大企業であれ矮小なものです、ヒトを若くするものは戦争であれ恋愛であれ偉大なものです」

 アダム・ウェインのセリフですけど、アダムということからもわかるようにウェインは始まりのヒト、という役割を与えられてる。暗く沈滞して無気力な時代を戦争が何度でも若返らせてくれるというのは、110年後の現代を生きてるIたちにはすげーわかってしまうことですわね。世界は老いてる、これはほんと間違い無いことだと思います・・・・


 チェスタトン自身この小説は若書きの作品で、あんましうまくいってないと言ってますが、確かにその通りで、アイデアはすごいいいし、やりたいこともわかるんだけど、ちょっと中だるみっつーか、テンポが悪いですわね、あんましギャグがうまく決まってなかったり、そこ広げる?みたいなとこでページを使いすぎてたり。
 話法を次々と変えたり、詩、擬古典的な書き方とかを駆使してるのですけど、それもちょっとなんか、これも使ったれ!みたいであざとい気がする、荒削りです、ようするに。でもこういう荒削りだけどアイデアとひらめき、そしてなんかエネルギーが伝わってくるってのはいいものですね。


 邦題は「新ナポレオン奇譚」となってますがこれはもうサイアクもサイアク、くたばりやがれって感じで、全然的外れです。すげーおもんなさそうなタイトル・・・。ナポレオンってそれほど関係ないし。ノッティングヒルっていう小さな街の名前とナポレオン、対比こそ意味があるタイトルなのに、なんじゃこれ。Iがタイトルつけるなら・・別にそのままノッティングヒルのナポレオンでいいと思うけど・・・そうだなぁ・・・
 
  ロンドン大道化戦争

 ってとこかな・・・。あるいは浅草国の信長。
  
 そいで訳文もなんかふるめかしくて冗談が伝わりづらいし、なんか上手いと思ってるのかしらんけどことわざやら述語をぶっこんでくんなって思います、で、よくみたら訳してるヒトがもう死んでるヤツとババァってわけでこりゃあかんで、って感じ。大昔の全集のやつを文庫にしてるだけなんです、ひどいなぁ・・・。

 昔この本のカバーイラストを宮﨑駿が書いてたんですね、これは初めて知りました。まぁ駿氏の好みそうなものはふんだんに含まれています、っていうかチェスタトンと駿氏の世界観は似てるって気がすごいしますね。本当の本当はまったくいい人じゃないヤバイヤツ、あっちがわのアレなんだってところ。びみょーーに生まれる時代を間違えてるってところとか。


 ともかくこの本は今の時代にこそ刺さる小説なので是非興味があれば読むべしです。


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 書き出し
予言者遊び。
(予言者にミライを語らせてそれとはまったく異なるミライを実際に成すことが人類の楽しみだった)

 しかし20Cになり、賢者が多くなりすぎ、予言も多くなりすぎ、予言を裏切ることが出来なくなった。

人類は個々でみると理性なども備えたニンゲン、であるが、全体として人類は気まぐれで不可解で愛嬌があるオンナ、である。
 (よって1985年のロンドンはほぼランダムに王を決定する愚民専制政治という政体となった。それは民衆という烏合の衆よりは、どれを選んでも愚劣なことでは同じだが、個人、のほうがマシだと考えたから。民主政治こそサイアクの政体である、革命は迷信であるとして・・・)

 革命は信仰である。革命は論理ではなく何か神聖で奇跡的な、信仰によってのみ遂行出来る。そうでなくてはすべての秩序をひっくり返すようなことは出来ない。

・セカイはますます近代化され、ますます実利的になり、ますますあくせく忙しくなり、ますます合理的になることによって、ユーモアを台無しにする・・・


古いポスター、15年前の戦争のポスターだ
 なんでこんな古いものをとっておくのです?
最後の戦争の記録だからです、戦争ってのが趣味なんだ

日常世界の平和を世の終わりまでかき乱す選択
 太く短い人生、短くて愉快な人生を選びとったのだ

クロムウェルが発見したのと同じことを発見した
 分別のある商人こそが最良の名将になるのだということ、人間を売り買いできるものは、人間を指揮して殺す事もできる

 社会が戦争が出来ずに沈滞していると、最も曖昧で、最も当たり障りのない、最も楽観的な新聞が生き残るのだ・・・

 帝国は1つの様式、1つの生き方を生み出し、何度でも世界を若返らせるナザレのようなものです。
 かつて暗い時代に賢者たちは鉄道はもっと速くなり、世界は1つの帝国になり、月まで鉄道が走ると考えました、Iはそうではなく、きっともう一度十字軍に行ったり、市の守護神を奉るようになると思いました・・・

 ターンブル指揮官
「おれには青春があった」
 ターンブルは斧を持って敵陣に突っ込んでいった・・・

 愚か者よ、貴様らは慌ただしく地上の王国をめぐりあるく、自由主義者であり、賢者であり、世界主義者であるだろう。だがそれらはすべて悪魔がイエスに与えようとしたものであり、にべもなく追い払われた・・

 ヒトを老いさせるものは帝国であれ大企業であれ矮小なものです、ヒトを若くするものは戦争であれ恋愛であれ偉大なもの

 すべてのものが同じように見えるのはそれが新しいからです、ヒトを夢中にさせ陶酔させるのは古いものだけです、古いものほど古びていかない