2017年10月28日土曜日

1936 葉桜と魔笛

 太宰治ってのは私小説風の、自分の人生を切り売りする、自分の悪癖を暴露する露悪的な小説が有名なのですが、創作小説、つまりはフィクションでもものすごい才能人です。ただ、芥川と一緒で、大長編を書くということはとうとう出来ませんでした。

「ワタシにはまだ戦争と平和を書くほどの腕はない、だからすこしずつやるしかないのだ」と書いているように、最後まで「戦争と平和」のような、これぞ歴史的マスターピース、っていう作品は作れませんでしたね。

 しかし短編はほんと天才的、特に短めの作品の完成度たるやすさまじくて、凡人には100年かかってもこんな作品はかけません。一体どういう風にアイデアを考えているんだろう?ワタシがもしも小説家だったら落ち込んでしまいますね、こんなにうまく書けるわけない。


 特に太宰ってのは女性の書き方がうまくて、女性よりも上手だし、女性よりもさらに女性的な心理描写を出来ます、女性にもわからないはずの女性の心理を描き出せる、それでも女性を無駄に美化していて、うそくさいという感じじゃなくて、とにかくリアル、なんです。この物語は一応オチがあるのでそれをばらせないのですが、いやはや・・・。

 前にもなにかで書きましたが、作家とかものづくりをする人間ってのは基本モテない人間ばっかしですから、太宰みたいな、真のモテる男、顔がかっこいいとかそういう次元じゃなくて、運命的に女性に慕われる人間ってのが作家なのは非常に希有なタイプなんですよね、だからこそ女性をちゃんととらえて描写が出来る。漱石みたいなあたまでっかちはもちろんモテないし、漱石は女ってのは心の底から理解しあうことが出来ないってのをずっと感じているという気がしますし、芥川にしたって、モテ路線ではない。

 他に一人もいないんじゃないですかね?わたしは太宰以外にこのタイプのクリエイターってのを知りませぬ・・・。


ちなみにモテる、というのは、一緒に死のう、といって、わかった。といってくれるような相手がどれだけいるかってことです。一人くらいならいるかも知れませんが、それが次から次に現れるなんてヒトいますか?