2013年3月31日日曜日

二十歳のエチュード 原口統三 ちくま文庫


 本をまぁまぁ読む人にはわかると思いますけれど、本に呼ばれるってことがあります、ファンタジー的な話をしたいわけではないんですけど、その作品が一番グサっと来る時に、何故かそれに出会ってしまうものです、それ以上年をとるとシンクロしきれないし、また理解出来ないってこともある。難しいってことは、ない、難解な本という言い方がIは嫌いです。クイズや問題集じゃないんだから、解く、必要は無いから。フィネガンズだって、ただ読めばいいだけで解読なんてしなくていい。

 
 少し、なんでこの本を手にとったかを書きますと、小説以外の本を読もうと思っていたら、毒書のススメ、だかなんだかいう本が目に入ったわけです。でパラっと目次をめくると、扱われている本は、Iのファイバリットばっかり、退廃的でエキセントリックな本を面白がりつつこういう極論を言う人間も理解してあげるのが幅の広い人間ですよと紹介する、みたいなくだらない本なのでしょうけど、じゃあIの好きな本は全部反体制的なものなんかい。だいたいビョーキ、あるいはキョーキっていうレッテルを張るのは少数派を病院に監禁するための手段じゃねぇかとツッコミつつ、リストの中でひとつだけ読んでない本があって、それがこの二十歳のエチュードでした。
 
 それでこの本をパラっとめくってみて初めに目に入ったコトバ

 ーーーーボクの代数の定理は、純潔、の一語であった

 が脳に突き刺さるように目に飛び込んできた。時間が無いってのにこの本はじっくり読まないといけないなと直感しました。

 内容は、ほとんどどうでもいいのですけれど、ただこの本を書いた統三君は、この本で予告した通りに自殺した、二十歳のエチュードは、20才への練習曲という意味ですが、統三君は、狙い通りに、練習をするだけで、二十歳を迎えずに19で死んだ。あまりにも見事すぎる・・・


 それがこの本のすべてです。内容の批評などは一切しません。


 生きていると周りの人の死に出会うけれど、親の死や血族の死というのは、実はなんか神話っぽくて実感出来ない、けれど同年代、同学年、トモダチの死、特に自殺ってのは、たぶん初めて、死というものが具体的に迫ってくるものです。何か環状線の鉄道のレールが切り替わって、ついに後戻りの出来ない軌道を走りだしたような、サイレンの響きみたいな気がするものです・・・これはトモダチの自殺ってのに会った人にしかわかんない感覚だと思いますけど・・・。


 ジブリの鈴木Pもラジオで話してましたが、親友の自殺で、ガラッと世界観が変わる、未来に何も描けないこと、ただ立ち尽くしていること、をまざまざと意識する、それである人は仕方なく、目の前にあるものを片付けていくことにする、ともかくそうしなければ生きてけないから、こんなことをやってても意味が無い、無駄だ、という雑念や迷いも、労働でかき消す・・・あるいは自分も自殺する・・・・

 どちらにせよ、そういう経験をした人間はなんとなくわかるんです、片道切符の乗車券に切り替わった人って感じで、Iはそういう人間が好きです、自分もそうだから。


 蛇足ですけど、自殺撲滅だとか、自殺はやめようって、断言されるのが無茶苦茶腹が立ちます。それは自殺した人間を全否定してるってのに気が付きませんか? 自殺した大切な人がいる人間は、そんな簡単に割り切ったりしない。相談してくださいというけれど、始めっからそっちは答えを決めてるヤツに誰が相談などするものか。始めっから相手を理解しようという気が一欠片も無い人間と交わすコトバなんて持たない。

                         Enfint 




 まとめ
・虚無という怪物、その兄弟は 安心 と 満足

・ニーチェ以来人類は貪欲を肯定している

・人類は真心を吐露しようと欲することにおいて罰せられている

・我々は良心というものが存在するかのように振舞おうではないか 森鴎外

・安心は常にボクの敵ではないのか

・愛はまさに我々の故郷に違いない ボクは故郷を持たない

・原口統三 慢性孤独病のマゾヒスト

・ボクは政治家ではない、ボクは価値そのものを抹殺する

・ボクの代数の公理は 純潔 の一語であった

・偶像の頭には 完全 という奇怪な護符が貼り付けてある

・広い道をとらねば生きていけるはずがない
 けれども誠実さは何と言っても狭い道を行く

・精神の自由者はいつも深淵へと張った細い糸の上を歩む者だ

・ボクにとっては自殺は新しい飛躍である、こう負け惜しみを言うと天使が慰めて曰く。
 死によってあなたの姿が消えても、その羽ばたきが風の中に残らないと誰が断言できましょう

・・・・すぐに次に踏み出すべき足を考える、彼の一歩一歩が探り当てた者、の誇りに満ちている・・・


・芸術が芸術を擁護するのはしょせん感傷にすぎない

・ボクの真面目さはボク一人になることであった

・人生に於いて大切なのは人生である  ゲーテ

・救済の観念を含まないような思想は無い、そしてそれを含まない思想は無価値である

・恋愛は売春の趣であるが、すぐに所有によって穢される

・それ故に・・を聞いたらオシマイだ、この呪文は雨を降らせる

・ボクは何も故意に君達に反対したのではない、ボクはいつでも一人だったというだけだ

・やがて宇宙的言語の時代が来るだろう、それは音、色、匂い、すべての陰影を要約して魂へと通ずるであろう     ―――ランボー

・ボクが戦争を嫌うのは、戦争は 正義 の仲間だからだ

・権利、正義、この単語が人類の辞書から無くならない限り、永久に戦争は絶えないであろう

・プロレタリアートよ、次はキミの番だ

・近代物理学の目標は脳と脳を電極によって結ぶことだ

・宿命 ボクの最初の幼い歌は脱走する日輪、太陽の終焉に対して捧げられた




・ボルシェヴイズムの神は自らの手足を食らう意魚である

・ボクの行動はすべて小説に書かれるための茶番かもしれないよ

・プロレタリアートは太陽を地上に引きずり落とそうとする、彼らは地球と無理心中を夢見ている、恋人こそいい迷惑だ
 太陽を欲するなら太陽に行き給え

・「もう帰って来ないのか」
「あぁ帰らない」
(思い切って、死ぬのか?と聞けないので)
「ぢゃあ、永久にvagabondのわけだね」

・une saison en Enfer 地獄の季節

・新しい物は残されている―――死

・必然性 貴様こそは敵だ!

ーーしかしお前の背中にはおれの分身の、宿命、がかじりついている

・あこがれとは波を棲家として、時の中に故郷を持たないこと・・
            ーーーーリルケ


・少年の日、ボクは机に向かっていた、書物の中に没頭して、何もかも忘れながら
その時母さんがボクの型に手を置いて言ったのだ
「もうご飯ですよって・・・・・

・すべての主義は自己の正当化、弁明にすぎない

・il faut etre absolumant moderne    究極に現代的であれ
                 ランボー