2021年5月30日日曜日

2008 図説第一次世界大戦 上 歴史群像シリーズ  学研

  第一次世界大戦についての本ってのは日本にはものすごい少なくて、ほとんど一般で手に入る唯一の本って感じです。

 もちろん他にもあるにはあるんですが、だいたいの戦争関連の本って


「戦争は悲惨だ、この教訓を生かしてほにゃほにゃ・・・・」


っていう作者の感想、決り文句ばっかりでして、別にあなたの感想なんて聞いてませんっていうものばっかりです。

 正しいかどうかの判断は、こっちがするので、データを出してくれって話です。


 もう一つは、何故戦争が起こったのか?という原因を探るミステリー調のものですが、むしろ「戦争が起こってない」状況が不思議なんであって、何故戦争が起こったのか?なんて愚問だと思いますね。

 誰もが戦争によって領土拡大したいんだから、戦争が起こらないほうが不思議です。現在だって、核が無かったら、領土拡大を求めて戦争を続けているし、戦争をしたいと思ってる国家は山程あります。

 

 この本はそういう本の中でもマシなほうで、実際の軍隊の行動とか、作戦がどのように失敗したかっていうのをまぁまぁ教えてくれます。

 ただ戦史ってやつは結果論でして、同じ行動をしていても、成功をすれば「勇猛果敢な突撃が功を奏した」、ってことになり、失敗したら「無謀な突撃をした愚策であった」ってことになる。

 それでたいがい負けたほうは、準備不足、補給線の崩壊、無茶な作戦、練度不足、軍隊の連携の失敗ってことになる。でも勝っていれば、準備を万全に整えることよりも、拙速をとった迅速な作戦展開が勝利をもたらした、と言われるわけです。

 結果、から理由を探すからこういうことになるわけで、結果が出た後にやっぱこのウマが勝つよね~って言う予想屋と同じです、走る前に言えよって話。


 ナポレオンじゃないですが、結局は運、強運を持ってるほうが勝つ、部下の将軍に求める才覚は「運が良いこと」。強運はあらゆる綿密な計画を覆すことが出来ます。突然の雷雨、相手の油断、メカの故障、運だけで解決出来ることは無数になる。

 ワタシはドイツが負けた理由はやっぱり、場所、が悪かっただけだと思いますね、ドイツの位置がスペインかイギリスの位置だったら、二正面作戦を回避出来て簡単に勝利出来た、ロシアの海軍はほぼ壊滅してたわけですし。ドイツもフランスも、ヨーロッパの真ん中ですぐに包囲網を敷かれる位置にあるんですよね。ドイツがヨーロッパの中心にあったこと、これはもう運以外の何者でもない。第二次大戦でも基本同じです、初めの位置取り、で勝負はもう決まっている。

 


・イギリスのジョージ5世とドイツのヴィルヘルム2世は従兄弟。

大ヴィクトリアの9人の子供がその後のほとんどのヨーロッパ王室に関係している。

長女ヴィクトリア・アデレイド・メアリ・ルイーズがプロイセン王フリードリヒ三世と結婚し、その長男ヴィルヘルム2世がドイツ皇帝

大ヴィクトリア次男がイギリス王エドワード7世、その長男がジョージ5世。

さらに次女アリスがルートヴィヒ4世と結婚して出来た娘がロシア皇后アレクサンドラ。


 つまり第一次大戦は大ヴィクトリアの子孫たちの権力争いという王室の内部抗争でもある。

  そしてWW1で、君臨すれども統治せずイギリス王朝以外、王、はすべて駆逐されて、総力戦、に対応した国民国家になった。


・ドイツが軍艦の急速が建造計画を打ち出し、イギリスの海洋支配に挑戦して、建艦競争が激化したことが、独英対立のきっかけだったが、実際の大戦ではドイツ海軍はイギリスに北海とドーヴァーを塞がれて外に出ることが出来ずに、ほとんど成果を上げられなかった。また軍艦は作ったものの、海軍の作戦を建てて実行する指揮官がいなかった。しかし、商船を狙った潜水艦作戦は効果的で、あまりにも効果的だったためにアメリカ参戦を招いた。潜水艦が商船を破壊しだすと、世界の経済がすべて停止するため。


・WW1での死者は900万ほど、スペイン風の死者は1200万とされる。人類の最大の敵は戦争よりも、病気である。


・WW1で一番恐ろしいことは「祖国の為に死ぬ」という、慣例を生み出したこと。  byベネディクト・アンダーソン

 それまで自分の共同体や、王、利益のための戦いだったが、祖国、に命を捧げるという行動規範は無かった。国民国家が、国家そのものを軍隊、にして、国民は祖国の為に死ぬ、ことが国民のありかたとされるようになった。日本陸軍のカミカゼ精神はフランス陸軍から継承されたもの。

 精神論はどう考えても勝てない時に、思考放棄して生まれるもの。精神論を言い出した時点でもう負けている。