2013年9月28日土曜日

黒澤明 どん底 1957

 さて、前回のレビューの続きです。

 黒澤が堕落と自殺を考えてたころの作品でして、どん底っていうテーマはまさにうってつけです。どん底というのは、ともかく貧乏人達の希望の無い日常を、描いた作品で、なんとシーンは1つだけ。ほかの飲み屋のシーンやらは何もなくただその、貧乏窟みたいなあばら屋と、その庭?のようなところだけで映画が作られている、ミニマルな映画です。
 演劇っぽいっていったらいいのか。


 そういうわけでも、役者のレベルが非常に問われる、役者中心の映画で、やっぱし、この時代の役者どもはスゲェとしかいいようがないですね。駿先生に言わせると、存在感、の違い。らしいですけど、まぁすげぇ。第一次大戦よりも前に生まれて、直に両方の大戦を体感してきたような、この世代には、何も言えないですね、人生経験が違いすぎる。あまりにも経験が無い、今のヒトには、圧倒的に経験が違いすぎる・・・


 どの役者でも今の役者では替えが利かないほどすごい。

 でも一番難しいのはでも山田五十鈴のお杉じゃないでしょうか、実は映画中唯一のヒールで、一番むっかしぃ。悪い奴ってのは一番難しい、道化はそれよりも難しいというのですけど、この映画では道化はむしろ愉快に演技出来る感じです。しかしヒールはむっかしい!!それを出来るのがすごい、特にこぉいう凄みのある女優ってのはいなくなった。みんなさっぱりと小奇麗で、素直でいい人なんでしょうけど、内容がない・・・

 それもやっぱ経験、の違いなんでしょうけど五十鈴さんは、超サラブレッドみたいですね、演劇界の娘で子供のころから日舞に舞台、お琴なんちゅう英才教育・・・、地味な鍛錬ってことですね。確かにこういう積み上げ型の女優かも。三船みたいな破壊型の演技じゃなくて・・・

 マクベス夫人もやってましたしね、大女優といえば、マクベス夫人みたいなとこがあって・・・





 そぉいう演劇少女みたいなものがすでに絶滅してるものね、大竹しのぶくらいが最後のそれじゃないですか。


 演劇論ばっかやってたって仕方ないのですが、この映画ってでも正直なところがあってAKの最後の名作だと思います。後は時間の無駄。
 監督自身の迷いとか絶望が、作品のそれと合わさって本当、があるから好きです。別にすべて自分の経験から導く必要はないけど、コアのところは、本当に自分の心から何かを出さないといけない。ただの嘘っぱちにならないように。



 終わり方も、良いです。反吐が出るハッピーエンドはしなかった監督ですけど、後期みたいなうんざりするお説教もない。ただなんか虚無感があるけど・・どういうわけか美しい。みたいな・・






 ともかく経験ですよね、経験が圧倒的に足りてない、現代、のニンゲンには。うんざりするほど、退屈で満たされてるから、経験がなんにもない・・・、どうやってそれを補っていくか・・・・。